自転車と釣りと余白と

自転車と釣りと周辺の余白について

River of the Covenant ーヘンリーズフォーク釣行記 終章ー

真夜中の20号線を北上する。
峠道を登り分水嶺を越える。アイダホ州からモンタナ州へ。川は太平洋から大西洋へと流れを変える。
昼間に較べすれ違う車も少ない。外気温は10度を下回っている。
ヘッドライトが照らし出す真っ直ぐな道を走る。
午前2時過ぎに、2週間滞在した宿所を出た。霞んだ月が出ている。
空港のあるモンタナ州ボーズマンまで160マイル。深夜の道行き。
エスイエローストーンの街から191号線へと入り、ギャラティン川沿いを走る。
外の気温が摂氏4度と表示される。誤差はあるだろうが、確かにそれくらいの気温だなと感じる。シートヒーターをオンにする。

12日間の釣りで3尾のレインボートラウトを手にした。
単に魚獲りなら、全くもって少ない釣果だろう。
はるか日本から太平洋を横断し訪れた地で約2週間釣りをして、たったの3尾しか手にしていない。
大きなレインボートラウトを手にしてリリースした日は、もうそれ以上釣りをしなかった。それ以上他の魚を追わなかった。それ以上魚を追う気になれなかった理由は、わからない。更にライズを探せば、或いは待てば魚を手にすることもあったはずだ。だが、それを探すのも待つこともしなかった。
釣人として失格なのかもしれない。

それにしても、ここが聖地と言われる理由がよく分かった。
フライフィッシングの理想が全てここにある気がする。
それらは閉ざされた、一部の人だけが享受できるものではなく、ルールさえ守れば誰にでも開かれたもの。
半世紀この川で釣りをしてきた老師と並んで、今フライフィッシングを始めたばかりという若者がぎこちないキャスティングを繰り返している。
あるいは、川辺にピックアップトラックを止めて、そこから川に向かって1人でキャストしているピンクのワンピースを着た女の子がいたりする。
ドリフトボートを操るガイドの指示でキャストする釣人がいるかと思えば、犬と一緒に川に浸かり涼をとる釣人もいる。その合間にカヤックやラフティングボートが下ってゆく。それだけ懐が深い。
フライフィッシングのみ、キャッチ&リリースの厳守。
たったこれだけで豊穣の川が保たれている。もちろん最初からそうであったわけではない。幾度も困難や危機を乗り越えてきた。それは釣人の熱意あっての克服だったはず。
聖地。いや、ここは乳と蜜の流れる川。約束の川。

River of the Covenant. 聖約の川。

日本の川を顧みる。何十年も昔から、この川を訪れた日本人フライフィッシャー達がそう思ったであろうことを、いま同じく思う。これが日本で実現できないものか、と。
また日本の川の現状、釣りを取り巻くもの全般の現状に、思うところがありすぎて、どうしてもやり切れない気持ちを抱かざるを得ない。
単純に文化の違いと言って片付けていいのか?
日本でも、かつてこのような理想郷を実現させようとした動きがあった。失敗が殆どだと思うが、日本に合った形で根付いたものもある。
しかしどうしても先進地の文化に直に触れてしまった今、暗い気持ちにならざるを得ない。
嘆いていても仕方がない。じゃあ何が出来るのか?それを考えないとならない・・・

この4年という年月は、自身にとっては無駄ではなかった。
もし、世界的なウイルス禍がなければ、2020年の夏にヘンリーズフォークに来ていた。
今になって思う。もしそのままヘンリーズフォークに来ていたら、今回のような釣りを出来ただろうか?と。
釣果にこだわり、見苦しい釣りをしたのではないか?小手先の技術に拘泥し、目先の利益に右往左往していたんじゃないのか?結果、何も得ることなく川を後にすることになっていたんじゃないのかと思う。
色々な制限を課されたウイルス過の最中、自分自身と釣りについて考えることが出来たのが却って良かったのだと、今は思う。
ヘンリーズフォークへの旅の前に、オンラインオフライン問わず情報を収集していた時、ヘンリーズフォークで釣りをするある動画を視た。
以前ならなるほどと参考にしたであろう動画だが、その中で釣人が使っていた言葉に違和感を覚えた。
「攻略・遠くのライズを獲る・パターン・これでなければならない」などの言葉。
攻略という言葉がどうしてもなじめない。もちろん私個人の主観だから、客観的根拠はないが、どうもそういう言葉から遠い所にフライフィッシングはあるんじゃないのかと思えてならない・・・

そんな事を思いながら夜のハイウェイを走る。

ライズを狙う老師

レインボートラウトの故郷にて

 

12日間の釣りでは竹竿を使用した。ヘンリーズフォークで釣りをするために製作してもらった竹竿をずっと使った。
製作してもらったロッドビルダーの石田さんとは20年来一緒に釣りをしている。毎年春の本流にてヤマメのライズを一緒に釣っている。ヘンリーズフォークでライズに対峙するのに、石田さんの製作した竹竿をどうしても使いたかった。作り手の顔が見えるものを使いたいと思った。
昨夜、すっかり片付いた自室で石田さんに今回の釣行の顛末とお礼のメールを画像と共に送った。宿所を引き払う時に返信が来た。自分のことのように嬉しいと。

ウッドロードに日参していたときのこと。そのバンは毎日夕方になるとやってきて、駐車場からちょっと離れた場所に止める。中からは1人の釣人と犬が降りてくる。まだライズが盛んな頃に他の釣人が必死にライズを狙っている中、その釣人は悠々と折り畳み椅子に座り犬と共に他の釣人を眺めていた。そして頃合と見るや支度を始めて犬と一緒に川辺に降り立ち、ジッと自分の前でライズするまで待っていた。
もう見えるか見えないかわからないくらいの明るさになった午後9時半ごろ、その釣人は静かに川に入りバンク際ギリギリを狙ってフライをキャストし始めた。そして誰も魚を釣っていない中、魚を掛けた。だが数度のやり取りで逃げられた。
今回の釣行中に見た魚とやり取りをする2人のうちの1人。
その釣人はウッドロードへの酷い道の途中にあるキャンプサイトというには粗末な広場にトレーラーハウスを持ち込んでそこで生活しているようだった。いつだったか朝にすれ違い手をあげてお互い挨拶した時に、そうだと気づいた。
トレーラーハウスやキャンピングカーで寝泊りしながら長期滞在し毎日釣りをしている人は結構いる。そして単独でそういう生活を送る釣人は必ず犬を相棒としていた。
毎日釣りに来ている男女カップルも多かった。年配者から比較的若い夫婦あるいはカップルで釣りに来ている。こういうところもアメリカらしいと思った。男女比ではまだまだ男性の釣人が多いと感じたが、女性の釣人は日本以上に多い。ヘンリーズフォークではないが、日曜日のギャラティン川沿いを走っている時に、女性フライフィッシャーのグループが駐車場で休憩しているのを見かけた。みなビシッと決まった服装で鍔の広いハットが良く似合っている感じだった。
どちらも、日本では余り見かけない光景。

今年の11月に大統領選挙があるアメリカ。
ヘンリーズフォークが流れるラストチャンス滞在中に、選挙を思わせるような出来事や催しに一切出会わなかった。あれだけ騒ぎになっていた共和党のトランプ候補の暗殺未遂事件も、テレビを視ない限りそんな出来事があったのがわからないほど静かというか無関心というか、そういう状況だった。小さな街だからあまり表立って意思表示をしづらいのかもしれないし、一介の旅行者の私にはわからない事情もあるのかもしれないが、にしても何もそれらしいことが無い。やはり隔絶された楽園なのか・・・

道の先に街の明かりが見える。ボーズマンの街だ。
早朝4時半、住宅や信号が増えてきた。
レンタカーのタンクをフルにして返却しないとならないので、寝静まった街の中で煌々と明るいエクソン石油の巨大なガスステーションに入る。併設のコンビニエンスストアは閉まっていて、ガソリンを入れる機械だけが動いている。ガソリンを入れて空港へ向かう。
車を所定の場所に駐車し、鍵を車内に残して荷物を降ろし、ターミナルへ向かう。
5時過ぎのチェックインカウンターには多くの人が並んでいる。
予めスマートフォンにてチェックインを済ませていた私は、日本語対応した自動チェックイン機でバゲッジのタグを印刷し、荷物に取り付けてカウンターに向かう。
朝から陽気な航空会社の職員がパスポートを読み込んで次の行き先を尋ねてきて間違いが無いか確認する。
荷物を預けたら、あとは搭乗口へ行くだけだ。
いつの間にか夜が明けていて明るくなっている外を眺めながら、搭乗時刻が来るのを待つ。

-La fin-

来たるべき日のために

ヘンリーズフォーク釣行記 終わり




River of the Covenant  ーヘンリーズフォーク釣行記 その8ー

DAY   12   JLY/21    2024

日曜日。

今朝も風が強いが昨日よりは和らいでいる。
湯を沸かしコーヒーを淹れて飲む。
昨夜荷物の整理をしてすっきりと片付いた部屋の中で、今日の釣りの準備をする。
8時過ぎに宿所を出る。
いつものようにオズボーンブリッジを渡ってハリマン州立公園へ入り、ミリオネアプール近くの駐車場に車を止める。
まずは状況確認のためにミリオネアプールを見渡せる場所へ向かう。
いつものライズポイントは風の影響がまだあり波立っている。そこには誰もいなかったが、手前の風をかわせるポイントには先客があり、そこに今まさにポイントへ入ろうとしている釣人もあり、もう入る余地がない。
どうしたものか・・・と考えた末、ラストチャンスの駐車場から歩いてボーンフィッシュフラットまで行こうと思いつき、来た道を引き返す。
オズボーンブリッジを再度渡ってラストチャンス最下流の駐車場へ。
駐車場には何台ものSUVピックアップトラックや巨大なキャンピングカーが止まっていた。そして今まさにランチへの柵を3人の釣人が開けて入っていくところだった。
今日は午後までの釣り。今日は自分の釣りより、出会う釣人とのコミニケーションをメインとすると決めている。インタビューというほどのものではないが、ここ数日余り釣人と会わなかったので今日は積極的に挨拶をして話をしようと決めていた。とはいえ乏しい言語能力のためコミニケーションの限界値も低いが、そこはまあ何とかなると思っている。今日まで何とかやり過ごしてきたのだからどうにでもなるだろうと、根拠なき自信。

「今日はホッパーとビートルの日だろう・・・」
「バグ(水生昆虫)がない!ホッパーじゃないか?」
「ホッパーやろ!今日は!」
「ホッパーじゃけぇのぉ今日は・・・」

すれ違う釣人がことごとくホッパーという。ホッパー、バッタのことだが、要は水生昆虫ではなく陸生昆虫をマスたちは捕食しているということなのだろうと理解した。
何人もの釣人とすれ違い簡単な会話を交わしたが、その中でも数人とはちょっと話し込んだ。そういう釣人には先日釣ったレインボートラウトの画像を見せると更に話が弾んだ。

「いいサイズ!フライは何?え?あ~PMDクリップルか!好きなフライ!」
「オレの知人が数日前ここでライズを釣ったのは#14のコンパラダンだった。ん?そう、コンパラダン。知ってるだろ?」
「あ~あの対岸で釣ってたのはお前か!見たよ釣っている姿!」
「日本から来た?おれ日本に2回旅行したよ。トウキョウ、キョウト・・・」
ケーンロッド(竹竿)使っているのか。オレ?これはグラスロッド。一つ前のオービスのグラスロッド。このアクションが好きでさぁ・・・」
「バグがない!」

概ね、よく釣ったなというニュアンスの言葉をもらったあとにこういうやり取りになった。コンパラダンという名フライの本当の発音がわかったのはちょっとした収穫だ。
とにかく日曜日のボーンフィッシュフラットは釣人が多いので話し相手に困らない。すれ違う釣人と話をするだけで1日が終わりそうだと思いつつ、適当な場所から川に入って、金曜日に釣ったポイントへライズを探しながら向かう。風はさらに和らぐ。
金曜日のライズポイント、対岸のバンク際まで川を横断して着いたが、ここまで一切ライズがなかった。そういえば今日はあれほどうるさく思ったカディスの群雄飛行がない。川面にもカゲロウの産卵後の個体やすでに死んだ個体が流れていない。確かにバグがない。そうか、だから陸生昆虫か。風も吹いたのでそれに飛ばされて流されるやつもあっただろうから、マスはそれを食っているのだろう。
ホッパーは持っていないので、アントかビートルで何とかならないかと思いながらも、ティペットの先には相変わらず#18のPMDクリップルを結んでいる。
ボーンフィッシュフラットからさらに下流のレールロード橋がみえる辺りまで来て、ようやくライズを発見した。それは川の真ん中辺りでのライズ。
それを狙うべく川に立ち込みポジションを取る。
安定してライズをしているので、タイミングを見計らってフライをキャストしレーンに入れてドリフトさせる。
あっさりとフライを咥えた。
すかさずアワセをくれる。
すぐに飛び上がる魚体。
プルプルとした感触が伝わる・・・
チビレインボートラウトだった。

それ以降ライズがなく諦めて川から引き上げる。そして駐車場へと歩き出す。

「どうやった?」

同じく川から上がって様子を見ていた釣人に声をかけられる。
先ほどのチビの釣果を告げると、

「ホッパー使え!え?ホッパー持っていない?じゃああげるよフライ!」

と言って自身のバックからフライボックスを取り出して大きなバッタを模したフライを摘み出して、私の手に置いた。

「これを使ってバンク際とか流れの中を釣ってみろ。とにかくしつこく流してみろ。オレは朝からこの釣り方で2尾掛けて1尾獲った。だからやってみろよ。」

と、えらく力の入った説明をされたので、気押されてしまい、ティペットを太いものに換えてから貰ったフライを結んだ。
そして、目の前のちょっと強い瀬を釣ってみる事にした。
日本の里川の大きな瀬を釣る感覚で魚の付いていそうな流れの筋にホッパーを投げてナチュラルドリフトさせると、いきなり反応がありフライが咥え込まれた。
え?と半信半疑でアワセをくれると、先ほどと同じような感触が伝わってきた。
チビレインボートラウトだった。
これって、釣り上がりよな・・・ブラインドの叩き上がりの釣りよな・・・
折角フライをもらったので一応やってはみたものの、この釣りをしにヘンリーズフォークまで来たのではないと、これ以上はやらないと決めて川から引き上げる。フライを切り、丁寧に水気を取りフライボックスに収納した。そして駐車場へ歩き始める。
午後2時過ぎくらいに駐車場に着くと先ほどのホッパー氏が着替えをしていた。
そこで釣果報告をしてお礼を言う。

「また来年会おう!」

と言われた。
それに手を上げて応え、着替えを済ませてウェダーとウェーディングシューズをトイレの前にある井戸の手動ポンプを動かして洗い、駐車場から車を出した。
20号線に合流し宿所へ帰る。
終わった。
12日間の釣りが、終わった。

ボーンフィッシュフラットへの行き道で出会った釣人のうちのひとり

朝のミリオネアプールに入ろうとしている釣人

12日間の釣りが終わった

最後のライズの主


宿所に帰り、シャワーを浴びて12日間延ばしたままだった口髭を剃り、グリルへ行き遅い昼食をとる。
明日未明、午前2時にはここを引き払い、160マイルの道のりを走りボーズマンの空港へ向かうことになっている。
もうその準備はしてあるが、釣り道具はまだ片付けていないので食後は淡々と片づけをする。
何気なくフライボックスを開けてみる。4年前からコツコツと巻いて貯めてきたフライも結構隙間が出来ている。とはいっても隙間があるのは#18のPMDクリップルだけだが・・・
レインボートラウトの口に掛けたフライ4本は自身の記念なのできちんと梱包して鞄に仕舞い込む。

PMDを中心としたフライボックス



全ての片付けが終わった。生活感のあった自室が借りたときの状態に戻る。
夕方、車にガソリンを入れないとならないのでラストチャンス唯一のテキサコ石油のガスステーションへ向かう。
なんとなくミリオネアプールが見たくなり、ガスステーションを通り過ぎてオズボーンブリッジを渡ってハリマン州立公園へ入る。
いつものように駐車場に車を止めてミリオネアプールを見渡す場所へ歩く。
夕方のミリオネアプールには誰もいなかった。
しばらく眺めてから帰る。
ハリマン州立公園から20号線に出て、オズボーンブリッジを渡りガスステーションに入りガソリンを入れる。
ガソリンをフルに入れて宿所に帰る。
なんとなく宿所の向かい、20号線を挟んで対岸の集落に沈む夕日を眺める。
落日を見届けてから自室に戻り、夕食を食べて荷物を車に積み込む。
スマートフォンのタイマーをセットしベットに横になる。

ガスステーションにて

明日の未明、午前2時にここを出る。

つづく

 

 

 

River of the Covenant  ーヘンリーズフォーク釣行記 その7ー

DAY   11   JLY/20   2024

土曜日。

「今日は何してたの?」
午後、毎日利用している宿所のグリルでいつものようにサンドイッチを注文した際に、アルバイトのメガネをかけた女の子に話しかけられた。
昨日も同じように話しかけられた。曰く、毎日何しているの?と。
アメリカ人らしい屈託のない会話だと思うが、確かに毎日同じような時刻にやって来てはメニューにあるサンドイッチとピザを順番に注文しているアジア人は一体何をしているのかと思ったのかもしれない。
毎日川で釣りをしている、こんな奴を釣ったと、釣った魚の画像を見せると、何となく納得してくれた。
今日も釣りをするために川に行ったけれども、風が強く釣りが出来なかったと伝えると、「ふ~ん・・・」と返ってきた。そして注文したサンドイッチを作り始めた。このように書くと塩対応な子と思われるかもしれないが、実は愛想がよく毎日来る私の名前も覚えていて、感じはいい。
件の子が出来上がったサンドイッチを席まで持ってきてくれた。お礼を言ってそれを頬張る。美味い・・・

今朝いつものように明るくなり始めた頃に目が覚めて起き出し外に出てみると、冷たい風、北風が強く吹いていた。空は青く今日も快晴のようだが風が強い。
ヘンリーズフォークで釣りをするのも今日を入れてあと2日。今日はどうなることかと思いながら、ルーティンをこなし川へ向かう。
いつものように20号線を南下しトラウトハンターショップの前を通りオズボーンブリッジを渡ってハリマン州立公園へ入る。
いつものように駐車場に車を止めて支度をしてミリオネアプールへ。駐車場には釣人らしい車が数台。
ミリオネアプールへの途中、今日の夜7時半からユースのオーケストラによる無料演奏会がある旨の貼紙が掲示板にあった。イブニングのついでに観にこようか。
ミリオネアプールを見渡す場所に出る。川面が風のせいで波立っている。荒れているというほどではないが、ライズの釣りをするにはちょっと難しいなと思う風波だ。
歴史景観地区の建物がある広場に、高いポールが設置されていて、星条旗アイダホ州の旗が掲揚されているのだが、いつもはだらしなく垂れているかそよぐ程度のはためきしかないのだが、今日は力強くはためいている。
釣人はいない。いつものようにあぜ道を歩いて川辺に。
時々、期待を持たせるように風が緩くなる。このまま止まってくれと思いながらライズするであろうレーンを見つめる。いつライズが起こってもいいようにと川に入りライズするであろうポイントで待機している。
一瞬緩んだ風は再び強く吹き始める。星条旗が力強くはためく。
いつものシャツの上にウインドブレーカーを羽織っているが、それでも若干寒い。
これはライズ無いな・・・と、正午過ぎに諦めた。3時間ぐらい待ち続けたが一向にライズは無く風も緩くならないので仕方がないと諦めた。宿所に帰ろう・・・

強風で波立つミリオネアプール

グリルにて

 

宿所に帰り、昼食後いつものように午睡し、午後5時ぐらいに再び川に向かう。
その前に、トラウトハンターショップに20号線を挟んで向かい合っているヘンリーズフォークアングラーという釣具屋に立ち寄る。この日この釣具屋の隣でセージロッドの試投会が開催されていて、午後7時までやっているということだったのでイブニングに行く前に試投しようと思った。
駐車場に車を入れたときに、朝あった会場のテントもロッドラックも無いのがわかった。終了時間前に終わってしまったようだ。午後7時までと書いてあったのに・・・と悪態をつきたくなったが、これもアメリカと納得しておく。
仕方が無いので店内に入り買い物をした。会計のとき、なんとなく会話の成り行きで、こういう風の強い日はどうしたらいいのか?と若い店員に聞いてみた。
「この辺りで釣りをするのではなく、上流のボックスキャニオンの方へ行き、ストーンフライのニンフを使って釣ってみたらいいんじゃない?」
とのことだった。実際その話をしている時に2人組みの若者が店内に入ってきて店員に、ボックスキャニオンに行ってニンフでいい釣りしたよ!と言ってきた。
ライズに対峙するためにここに来たので、大きなインジケーターを着けてニンフを流す釣りをすることは無いが参考として聞いておく。お礼を言って店を出る。

ヘンリーズフォークアングラーズにて 各釣り場の状況とマッチするフライの情報が書き込まれている 余計な情報を書き込んでいないのが好感を持つ

朝の風が治まっていてほしいと期待してミリオネアプールへ。
残念ながら風は治まっていなかった。まあいいか、今日は釣りは止めよう・・・
釣り支度をせず川沿いにある轍を上流に向かって散歩する事にした。
何の目的もなく歩く。歩きながら何かを考えるでもない。ただ歩く。
レイルロード橋まで歩いてからミリオネアプールまで引き返した。
ミリオネアプールに一人の釣人。川の真ん中に立ち込んで流れにフライを投じている。インジケーターを使っているのでニンフを流しているのだろう。これなら風の中でも釣りができる。実際あとから数人の釣人がやってきたが、全員インジケーターを装着していた。
所在無げに川辺で釣人を眺めていたが、ユースコンサートの時間となったので会場に向かう。既に結構な人が集まっていた。保護者が大半と思うが意外と観客があるなとちょっと驚いた。
コンサートの内容は、初めにユース楽団の趣旨や沿革の解説があり、その後指揮者が登壇し一曲演奏してからオーケストラ編成や音楽理論について説明しながら数曲演奏し終わりとなった。演奏曲は知らないものばかりだったが充分楽しめた。

夕方の釣人

ユースオーケストラのコンサート


午後9時半ごろ宿所に帰る。まだ明るいなか、宿所に来ていたキッチンカーでチーズバーガーとポテトサラダを買って芝生に据え付けてあるテーブルで夕食とした。昼食の残り半分を夕食としていたが、それは明日の朝に回すことにした。丁度買い込んだバケットが無くなったので都合よかった。
食後自室に戻って部屋の片付けを少しだけする。荷物はいつでも纏められるようにはしてあるが、それなりに散らかっているので一回整理をする。毎朝簡単に掃除と整理はしているのですぐに片付く。
テレビのスイッチを入れてみるも相変わらずトランプ候補暗殺未遂のニュースかスポーツニュースくらいしかやっていないのですぐに切る。
明日の釣りへの準備をしてからシャワーを浴びてベットに寝転がる。夜は10度台まで気温が下がるが、部屋の断熱がしっかりしているのか寒くならない。窓を開けておいて丁度いい具合となる。冬は零下50度近くまで下がることもあるようなここラストチャンスなので防寒断熱対策はしっかりしているのだろう。
部屋の電気を消して、読書灯を点けて日本から持参した文庫本を読む。開高健ベトナム戦記」と一ノ瀬泰三「地雷を踏んだらサヨウナラ」の2冊を持参している。釣りの本は持って来なかった。
ベトナム戦記をしおりを挟んだ箇所から読み始めたものの、数ページ進んでやめた。
本を放り出して寝転がりながら今日までアメリカに来てから目にしたものや出来事を思い返したり、奈良原一髙やアレック・ソスという写真家のことを思い返したりした。どうも奈良原一髙の「消滅した時間」のイメージが離れない。
また2年前に葉山の神奈川県立近代美術館でのアレック・ソスの展示を思い返しながら、ここで視ている風景とを重ねてみたりした。
アメリカの分断」と言われるようになって久しいが、ここではそのようなことは何も感じない。一介の旅人にはわからないものなのかもしれないが、それでもそのような雰囲気を感じることは無い。穿った見方をすれば、このラストチャンスに来て出会ったり見かける人は全て「白人」であるから、そう感じるのかもしれない。厳密にはネイティブアメリカ由来の人もいるし中南米から来た人もいるが、ともかく圧倒的に白人の街だから、そう思うのかもしれない。
そんなことを散文的に思いながら寝転がっているうちに眠くなった。

ニュース


明日は釣行最終日。明日は釣れるのだろうか・・・


つづく

River of the Covenant ーヘンリーズフォーク釣行記 その6ー

 DAY   10   JLY/19    2024

金曜日。

釣行10日目の朝、快晴。
いつも数台の車が止まっているレイルロードランチの郵便受け前の駐車場に1台の車もなかったので反射的に駐車場に入る。これで今日のポイントがボーンフィッシュフラットと言われる広大なプールに決まった。ヘンリーズフォークの中でもとりわけ有名なポイントへ入るのは初めて。昨日いいサイズのレインボートラウトを釣ったミリオネアプールの上流となるそのポイントへは1.2マイルほど牧草地を歩いて向かう事になる。
大型トラックやキャンピングカーが行き交う20号線を横断し、柵を開けて真っ直ぐに伸びた轍を真っ直ぐに歩く。
30分ぐらい歩いたら川に架かる橋に着く。その橋の付近はこの川にしては珍しく急な流れとなっている。橋を渡って右に、つまり上流へと向かう。
早速ライズ待ちの釣人がいる。柵に自転車が立てかけてある。この川でライズを探して土手を歩き回ったりポイント移動をしたりするのは距離もあり時間もかかるので自転車を移動手段として活用するのはいいアイデアだと思った。残念ながら私は自転車を持っていないのでひたすら徒歩でライズを探すしかない。
やがて広大なプールに出た。ボーンフィッシュフラット。
中洲やバンクに隠れて見えなかった釣人がそれなりにいるのがわかった。駐車場に車がなかったから人も少ないのかと思ったがそうではなく、上流のラストチャンス側の駐車場からここまで来ているようだった。それにしても広いフラットな流れ。
中洲や対岸では立ち込んで釣りをしている人とバンク際でライズを探している人が合計で7人。こちら側には今の所さっきの自転車氏以外は私一人。ただ私のはるか上流に釣人が1人いるが川から引き上げている最中だった。
見るでもなく川を見ながらゆっくりと上流へ歩いていると、川のど真ん中でライズ。
それを狙おうかと思ったが、丁度対岸でライズ待ちしてた釣人が同じくそのライズを見つけたようで、川に入りライズしたポイントへ歩き始めた。なれた釣人らしく非常に静かに慎重にライズへと歩を進めている。やがて川の真ん中あたりに到着したが、水深が膝下ぐらいしかない。なるほどボーンフィッシュフラットの名前はこれから来ているのかと納得。釣人はライズに対してフライをキャストしていたがそれを釣る事はなかった。

対岸の釣人の釣りを見ているとき、20メーターぐらい上流のバンク際で小さいライズを発見したので、それを狙う事とした。午前10時2分。
下手なアプローチをすると一瞬で逃げ去るだろうと、バンクに横這いになり、ジワジワとライズににじり寄る。投げられると判断した距離、8メーターぐらいまでにじり寄れたので、フライを投げる準備をする。アップストリームキャストしか出来ないが、フライラインは水面に置かずバンクに乗せるようにキャストし、できるだけフライが自然な流れになるようにしないとならないと自身に言い聞かせる。幸い、ライズは頻繁なので位置の特定はしやすい。また何を捕食しているのかはわからないが、昨日までの経験で#18のPMDクリップルをティペットに結んである。
タイミングを見計らって、キャスト。
フライラインはバンクに、リーダーとティペットは水面にある状態でフライがライズポイントへ流れる。
何も起こらない。
フライが視界に入っていないわけがないと思うのだが何も起こらない。
そしてライズは沖に移動した。
間合いを見て再度キャスト。
何事も起こらない。
そして更にライズは沖に移動。
仕方なく、バンクを降りて川に立ち込む。
ライズは更に沖に移動し、やがて消えてしまった。

仕方がないので立ち込んだまま上流へ歩き、他のライズを探す。が、ライズは見つからない。そうそうライズがあちこちであるわけではないこの状況で、先ほどのライズに対処できなかったのは経験不足であるのはともかくとしても、残念だと少し思った。
後ろを振り返り先ほどのバンク際を見ると、ライズ。
戻ってきたのか?いや別の魚か?
ともかく先ほどの場所でのライズ。当然それを狙う。
先ほどと違い下流へ向けてフライをキャストしないとならないポジション。ダウンキャストあるいはダウンクロスへのキャスト。ちょっと厄介だ。
最初にライズを見つけてから1時間以上経過している。同じ魚ではないかもしれないが、同じ場所で同じようなライズをしているので同じ魚の可能性も充分あると思い込む。そうであって欲しい・・・
静かに下流へ歩を進めながライズとの間合いを詰めてゆく。先程よりもライズの頻度は下がっているが、場所は大きく移動していない。ただバンクから少し離れて沖に移動した。
10メーターぐらいまで間合いを詰めた。このぐらいの距離が私自身釣りのしやすい距離。キャスティングもしやすくフライを自然に流すための管理もしやすい距離。それ以上の距離になると精度が落ちて半分ギャンブルになる。それ以上短いのはまだ対処できるが何となくやり辛い。なので出来るだけ自分のやりやすい距離をとって釣りをするように心がけている。
少なくなっていたライズの位置を再度確認して、そのレーンにフライを流すべく、キャストする。
1度目は何事もなくフライが流れ去る。
2度目にライズの主はフライを吸い込んだ。
すかさずアワセをくれる。
ズシッ!とした手応えが伝わる。
ゴボッ!と音を立てて水面をかき乱す魚。
不思議とジャンプはせず、その場で2度ほど暴れると一気に下流へ走り出した。
悲鳴に近いクリック音を奏でるセントジョージⅢ。ラインが真っ直ぐに下流へ伸びている。もうバッキングラインまで出ている。
止まった。
すぐにリールを巻き始める。が、手に感じていた魚の重みがなくなる。
外れたか?と思ったがそうではなく上流に、つまり私に向かって走ってきていた。
必死にリールを巻き取る。やがて手に魚の重みが回復し竿が曲がる。針が外れなくて良かったと安堵しながら、ジワジワと寄せにかかる。
竿のバットを矯めて魚を寄せる。何度か暴れる素振りを見せたが何とか凌ぐ。
背中のネットをDリングから外して川の中に捨てる。ランヤードで繋いでるネットは川の流れに波を立てて引かれる状態となる。ここまでは上手くいっている。
魚がハッキリと見えた。綺麗なレインボートラウト。そして昨日釣ったレインボートラウトよりも明らかに大きいのがわかる。
最後の抵抗をなんとかやり過ごし、ネットを差し出す。そこに誘導しようとするも、魚体が大きくて上手く入らない・・・この瞬間はいつも緊張を通り越して恐怖だ。
頭からネットに入った。
魚体がネットの中に完全に収まった。
妙に冷静に、水から出すな、バンク際まで移動し、記念撮影できる場所を探して素早く撮影して元気なうちにリリースしないとと、思った。
ふと遠い対岸を見る。
川の真ん中でライズに対峙していた釣人2人が対岸のバンクに上がっていて、どうやら私の一部始終を観ていたようだった。そして顔を向けた私に手を振っている。
魚を見せたかったが水から上げるのは魚を弱らせてしまいそうなので、代わりに右手に持った竿を高く掲げて返答とした。

ライズの主

#18のPMDクリップルはネットの中で外れていた。もちろんバーブレスフック、つまりカエシのない針を使っている。こんな小さいフックでよく持ち堪えたと思った。小さい針ほどちゃんと掛かってしまえば外れに難いものだとは思うが、それにしてもよく持ち堪えてくれたと思う。6Xのティペットも同じく。
サッと撮影し、魚体を両手で支えて泳ぎだすのを待つ。
ゆっくりと、本当にゆっくりと、しかし力強く泳ぎだして、消えて行った。
正午を過ぎていた。今日はこれで帰ることにした。

昨日今日と良い魚を手に出来た。ビギナーズラック。
10日ほど釣りをしただけで何かがわかるわけではないのは重々承知している。だいたい半世紀ここで釣りをしている人ですら難しいというのにフラッと訪れた釣人の私に何がわかるというのか・・・と、昼食後自室で唐突に思った。
ヘンリーズフォークでライズに対峙したい、ライズを釣りたいと切実に想ったと自分自身では思い込んでいるけれども、本当のところはわからない。
わからないまま、毎日目の前のライズに対峙している。

有名なレールロードランチの郵便受けと真っ直ぐな道が続くゲート

ボーンフィッシュフラットの真ん中でライズを狙う釣人

明日は釣れるのだろうか?

つづく

 

 

 

 

 

River of the Covenant ーヘンリーズフォーク釣行記 その5ー

DAY   9   JLY/18   2024

木曜日。

釣行9日目の朝を迎える。
毎朝日の出前に起き出して、湯を沸かしコーヒーを飲みバケットとバナナを食べて朝食とし、下着類の洗濯をし部屋の掃除をしてから川へと出発している。ときおり起きてすぐにテレビのスイッチを入れてCBSニュースやABCニュースを視るも、共和党トランプ大統領候補が暗殺されかけたニュースばかりですぐに視るのをやめてしまう。テレビといっても電波を受信しているのではなくインターネット回線を通じてサブスク配信での視聴。なので映画やドラマも見放題なのだが、元来そういうものを利用していない私は専らニュースチャンネルを視るくらいしかない。そういえば今年はアメリカ大統領選挙の年なのに、ここラストチャンスでは選挙イヤーっぽさが全くなく、ただただ平穏な街道筋の宿場町であり続けている。ラストチャンスはアイダホ州に属し、アイダホ州はいわゆる「赤い州」つまり共和党の堅い基盤州だと思うのだが・・・

今朝もルーティンをすべてこなしてから宿所を出発した。
朝の爽やかな20号線を南下し、ヘンリーズフォーク沿いを走り、ウッドロードへ左折する交差点を直進し、オズボーンブリッジを渡って右折しハリマン州立公園へ。
日参したウッドロードを見切るわけではないが、どうも状況がよくないのではと思い今日はミリオネアプールに入ることにした。
これまで8日間釣りをしてきて、周りで魚を掛けている釣人を見たのはたったの1回だけだった。小さなレインボートラウトを釣っているのは数度目撃したが、それなりのサイズのレインボートラウトをヒットさせてやり取りしているのを見たのはたったの1回だけで、しかもその釣人は結局フックアウトし逃げられていた。変な話、2日前に自身が釣ったレインボートラウトが8日間で見た唯一の魚とも言える。無論見ていないところや時間で釣果があったとは思うが、10人ぐらいの釣人がいたにもかかわらず、ライズが盛んだったにもかかわらず、誰の竿も曲がっていなかった。土曜日に出会ったレネ・ハロップ氏も、盛んなライズに対してキャストを繰り返していたが、ついに釣る事はなかった。川から上がってきたレネ氏は私に、
「難しすぎる・・・」
と言ったので、本当にタフなのだと思う。そんなの、とうてい私なんかが釣れるわけがないじゃないか・・・
こうなるとあとはビギナーズラックを期待しちょっとでも可能性のある場所で釣りをするしかないと思い、今朝はここミリオネアプールへとやって来た。支度をして川に入る。

島影に隠れてわからなかったが先客があったようだ。ただ私が入ろうとしている場所からは200メーターくらい離れているように感じたのでそのまま入ることにした。とりあえず手を振って挨拶をすると先客も手を振って返事をしてくれた。これでお互いを認識したので無用なトラブルを防げる。
先客の上流側、バンクと中洲の間くらいまで立ち込みライズを待つ。今日ライズするかどうかはわからないが私はいつもこの場所でライズを見ているのでここで待つしかないと思った。
「God it!!」
下流にいた先客がそう言ったように聞こえたのでそちらを見ると、竿が曲がっていて、やり取りをしている。釣ったんだ・・・
慎重なやりとりをしている。見た感じ30メーターは走られている。ジャンプはしない。先客は慎重にラインを送ったりリールを巻いたりしている。
が、バレてしまった。
大きかった?と大声で聞いてみると、
「大きかったと思う。まぁティペットが7xだからねぇ・・・」
と返ってきた。そして川から引き上げていった。

午前10時過ぎ、立ち込んでいる先10メーターぐらいでライズが始まる。
いつものように単発かつ不定期、場所を小移動しながらのライズ。今までこのライズに何度もチャレンジしたが全く歯が立たなかった。
#20のPMDクリップルをライズのタイミングを見てキャストしドリフトさせること3度目に、ライズの主はフライを吸い込んだ。すかさずアワセをくれると、手にズシリとした手応えを感じる。そしてジャンプ。
大きい、かなり大きい・・・
一気に下流に走る。リールがジジジ!と逆転音を奏でる。止まらない・・・
ようやく止まった。竿を矯めて寄せにかかる。バッキングラインまで出かけたラインを巻き取りながらジリジリと寄せる。時折ググっと首を振る感触が伝わる・・・
あと10メーターぐらいまで間合いを詰めた。下流へ走った魚は今はサイドにいる。だがまだ姿が見えない。
フッと、感触がなくなった。
落胆する間もなくリールを巻きラインを回収した。またしてもティペット切れか・・・と思ったが、フライは付いていた。フックアウトだった。そしてフライを手にしてみると、フックのフトコロが開いていた。
自分自身でも不思議なぐらい冷静だった。感情的にならず、済んだことは仕方がないと気持ちを切り替えてフライボックスから新しいフライを摘み出して、新しく張り替えたティペットに結んだ。ティペットに傷はなかったが、先立って、昂ぶった感情を鎮める意味もあり新しいティペットに交換した。こういう作業が気持ちを鎮める。

午前11時過ぎ、立ち込んでいる下流でライズ。
これを狙おうと、ポジションを取る。ライズは徐々に上流、つまり私に向かってきている。そして私の左横を通り上流へ。
これまでライズに対してダウンクロスのポジションを取るようにしていたが、このライズは私を追い越してしまったのでアップストリームに投げることにした。距離は10メーターもない。
次のライズする場所を予測しそちらへ身体を向けてかまえていると、想定した位置でライズ。すかさず#18のPMDクリップルをキャスト。フライが流れ出して数秒後、何の疑いもなくライズの主がフライを吸い込んだ・・・
一気に私を通り越して下流に走る。リールが逆転しラインが出てゆく。その間テンションを保つべく竿を高く掲げて走るままに任せる。
止まった。
先ほどと同じく、竿を矯めて寄せにかかる。リールを巻きラインを回収しジリジリと寄せる。
今度は岸に向かって走り出した。私もそれに追従して岸に向かう。こちらから魚に近付いてゆく。
魚体が見えた。大きい・・・
息が少し上がっている。背中のネットを外すのが上手く行かずもどかしい。
あと少し、あと少し・・・
あと少しで魚を手に出来るというこの時間こそが、最も緊張し恐怖する時間。
最後の抵抗をする魚。見事な顔つきのレインボートラウト。
差出すネットに誘導する。満月を描く竿。
入らない・・・大きくて入らない・・・
何とかネットに収める。
水から魚を出さないよう気をつけながら草の茂ったバンク際へ。
バンク際に着くと、ネットを水につけて魚を確保した状態で安定したのを確認してから、肩にしていたバックを草むらに放り投げた。
ネットの中で静かにエラを動かすレインボートラウト。大きさは正確にはわからないが、どう見ても51センチ、つまり20インチはあると感じる。ネットの全長が61センチ、ネットの枠が内径で40センチ強。まあ大きさなどどうでもいい。何年か前からメジャーやその他計測する道具を持たなくなったので正確な長さはわからない。どうでもいい・・・
それにしても欠損した鰭もなく、傷もない魚体。

緊張と解決 顔つきが素晴らしいレインボートラウト

本当は仕事で使っている機材でじっくりと魚を撮影したかったが、出来るだけ早くリリースしないとならないので、スマートフォンで素早く撮影し、リリースした。
手の中でとどめておきたいという私の気持ちを知ってか知らずか、ゆっくりと川に消えていった。

いつの間にか、下流に釣人が入っていた。何か私に話しかけているが距離もあり上手く聞き取れない。
時間は正午すぎ。まだライズを探せばあるとは思うが、これで川から上がる事とした。
徒に釣果を求めるのは厳に慎むこと、魚獲りではなく、魚釣りをするのだという気持ちを思い出しておく。
川から上がってあぜ道を歩き、先ほどの釣人に上手く聞き取れず申し訳ないことを伝へつつ挨拶し、駐車場へ向かう。
宿舎への帰り道、オズボーンブリッジを渡り20号線を北上しラストチャンスの集落を制限速度の45マイルで走る。

これが、ヘンリーズフォークか・・・

伸ばされたフック 

ミリオネアプール近くの駐車場にて

わかりにくいが魚とやり取りする釣人

宿所に帰り、グリルでサンドイッチの昼食を食べてから午睡をし、夕方ウッドロードへ。
ウッドロードに到着すると誰もいなかった。そしてすぐに雲が流れ出して風が変わり、雨が降り出した。そして雷・・・
それが通り過ぎると、東の空に虹が出た。
結局、釣りをすることなく宿所に帰る。

宿所ではイベントが開催されていて、ステージでバンドが演奏しよくわからない歌を歌っていた。ロックでもなくカントリー&ウェスタンでもなく、何といっていいのかわからないがとにかく演奏して歌っていた。確かグリルに貼紙してあったなこのイベントの事をと思い出しながら遠目で観ていると、宿所の女主人が手招きしてきた。もっと近くで楽しめと。無料コンサートだから遠慮せず楽しめ!と。
つばの広いハットを被った男が若い女性を誘って踊ったり、持参した椅子に座ってビールを飲みながら鑑賞したりと、めいめいで楽しんでいる。
これもアメリカの田舎文化かと思いつつステージを観ていた。
ステージのバックに満月が昇る。
"Moon rose over an open filed"
サイモン&ガーファンクル「America」の歌詞そのものだ。

ウッドロードにかかる虹

"Moon Rose over an open filed"

明日は釣れるのだろうか・・・・

つづく

River of the Covenant  ーヘンリーズフォーク釣行記 その4-

DAY  6   JLY/15   2024

月曜日。

夜明け前に起きる。
昨夜寝る前にこれまでの事を思い返していた。
ヘンリーズフォークでライズに対峙したい、釣りがしてみたという抽象的な思いを、ヘンリーズフォークへ行く、ライズを釣るのだと具体化し実行に移したのは2019年の秋のことだった。何から手をつけていいのか?と考えた末、まずは蜉蝣ロッドの石田さんに竿の製作依頼から始めた。そして翌2020年の7月にヘンリーズフォークへ行くと決め旅行代理店へ各種手配の相談を始めた。
明けて2020年3月。急激に世界情勢が変化し、海外渡航が出来なくなり、否応なしにヘンリーズフォークへの釣行は延期となった。自身の身の回りも色々変化し、暫くは何も出来ないなと、出来上がった蜉蝣ロッド8ft#5を手許にしながらも、計画を一旦白紙とした。
それから4年の歳月が流れ、今ここにいて、ライズに翻弄されている・・・

今朝は曇り空で陽が差さない。外に出てみると寒い。気温12度。ロッキー山脈の只中、標高1800メーターの集落ラストチャンス。
いつものオックスフォードタイプのシャツの上にフリースを羽織って車に乗り込み、ウッドロードを目指す。
どんよりと曇った空を映す川面のウッドロード。いつものようにバンク際でのライズを待つ。陽射しがないと寒い。
午前9時過ぎ、いつものように川の真ん中あたりでライズが始まる。午前10時過ぎにバンク寄りでもライズが始まった。リールからラインを引き出しガイドに通し、リーダーにティペットを繋ぐ。4xリーダーの先端をカットし4x、5xとナイロンティペットを接いでメインのティペットは6xフロロカーボン。昨日まで2回連続でティペット切れをおこしたのはいずれも5xと6xの接続部分だった。ノットが出来ていない、強度が出ていない・・・昨夜ノットを見直したときにそれを確認した。これまでこのように切れたことが殆どなかったので戸惑っていたが、事実として強度が出ていなかったのを自身の手で確認したので、痛い教訓とし今日はきちっと結ぶ。
ティペットに#16のPMDクリップルを結んでライズに対峙し、キャストを始める。
当然のように無視され、ライズが止まる。
午前11時過ぎ、バンク際に立ち込んでいる自身の正面10メーターほどでライズ。いつものように川面に窪みをつけるような静かなライズ。しかし単発ではなくそれなりに頻繁にしている。が、上下左右に微妙に動きながらのライズ。
ライズへのポジションはサイドしか取れないが、フライをナチュラルドリフトさせるには自身では比較的やりやすいポジション。
間合いを見計らってフライをキャストする。
流れていたフライをライズの主が吸い込んだ。
竿を煽ってアワセを入れる。確かな手応えを感じる。
すぐに沖へ走り出した。足元に溜めていたラインはすでになく、セントジョージⅢが音を立てて逆転しラインを吐き出す。ジャンプはしない。
魚が走るのを止める。竿を矯めリールを巻き寄せにかかる。蜉蝣ロッドが綺麗な曲線を描く。
ティペットに藻が絡まっている。その先に銀色をした魚体がある。
魚の頭を川面から出し空気を吸わせ、差し出したネットに誘導し掬う・・・

「サイズは?大きい?」
私の下流100メートルぐらいにいた釣人が、私がネットで魚を掬い顔を上げたときに、こちらへ手を振りながらそう聞いてきた。
私は、そんなに大きくなく、14~15インチ程度だと大声で伝えた。そして続けて、この国で初めて手にしたレインボートラウトだとも伝えた。小さなレインボートラウトはいくつも釣ってはいたが、ヘンリーズフォークでは何となくカウントできないんじゃないかと思っていたので、そう伝えた。
「おめでとう!」
と返ってきた。
魚を水面から出さないように気をつけながらバンク際により、素早く記念撮影をして口から針を外し、水中で魚体を支えて泳ぎ出すのを待つ。
やがて、ゆっくり泳ぎ出すと沖へと消えていった。

小さいながらもヘンリーズフォークで手にした初のレインボートラウト

曇り空を映し出すウッドロード

昼に宿所に帰る。今日はいつものグリルが定休なので昨夜のうちにサンドイッチを買っておき冷蔵庫に入れておいたのをレンジで少し温めてから昼食とした。
釣りには直接関係のない話だが、アメリカの物価高と劇的なほどの円安を憂慮し、できるだけ自炊しようと心がけてここに来たものの、やはり面倒なので初日に宿所併設のグリルでサンドイッチを注文してしまってからは、結局毎日通う事となった。そしてアメリカでもう一つ憂慮していた食事・・・ありていに言えば食事が口に合わないことは、意外と口に合った。過去のアメリカ滞在では口に合わない食事も多かったので渡米前からげんなりしていたのだが、杞憂だった。むしろ地元のおばちゃんやバイトの子があくせく立ち回って働くグリルのサンドイッチやピザはとても美味しく、毎日楽しみにすらなっていた。量が多いので昼夜兼用とすると値段も許容できた。

食後、少し午睡をしてのち車を走らせて川を見に行く。これまでミリオネアプールとウッドロードしか見ていないので、ラストチャンス周辺のヘンリーズフォークを見て回ることにした。
ラストチャンスの入口付近の川は流れがちょっと強く川面も若干波立っていて平瀬といった感じだった。所々に岩がありペリカンが止まっていたりする。ヘンリーズフォークにはカモメやペリカンが普通にいる。この辺りには有名な釣り客向けの老舗ロッジがある。
20号線を南下しトラウトハンターショップを過ぎて右に入る細道をゆくと、レイルロードランチ上流部の駐車場に着く。ここには有名な展望デッキがあり川を一望できるようになっている。デッキの手前にはこの川のことやハリマン州立公園のこと、この川でなぜフライフィッシングとキャッチ&リースだけが許可されているのかなどの説明が書かれたボードが設置してある。またトイレなどの設備もあり、トレーラーハウスやキャンピングカーでの旅人向けの給水所と汚水汲み取り設備?もある。20号線を往来するそれらの車はとにかく巨大で圧倒される。家が走っているようなものだ・・・
再び20号線に戻り、ウッドロードへ行く交差点を過ぎるとオズボーンブリッジを渡る。オズボーンブリッジも有名な場所で、駐車場とトイレが完備されている。ここはドリフトボートを降ろす場所でもあり、いつもガイドがクライアントを乗せてここからヘンリーズフォークを下ってゆく。意外に思ったのが、ヘンリーズフォークでもドリフトボートで釣りをする人が多いこと。ウッドロードでライズを待っているとボートが流れながら要所要所で釣りをするのに遭遇する。

レールロードランチからオズボーンブリッジまでを巡る

イブニングは再びウッドロードへ。
連日イブニングの釣りは惨敗だがこの日も惨敗だった。気のせいかライズも少なかった。

 

DAY  7   JLY/16   2024

火曜日。

今朝はミリオネアプールへ。誰もいない。
ライズを探して上流のレイルロードランチ橋まで歩くもライズははく引き返す。
ただバンク寄りを泳ぐレインボートラウトはいた。
戻って場所を変えようと思って引き返す途中、いつもの箇所でライズしているのを見つける。
それを狙うべく川に入りしばらく観察した後にキャストを始める。
結局このライズは釣る事が出来なかった。

イブニングはいつものウッドロードへ。
この日も惨敗で終わった。というより、ライズも釣人も極端に少なかった。

特記するべき事もなく一日が終わる。

 

DAY  8   JLY/17   2024

水曜日。

今朝もウッドロードへ。
朝からいつものようにバンク際でライズを待つもいいライズがないまま正午を迎える。
全くライズがないわけではないが極端に単発かつ位置不特定でのライズに何も出来ず惨敗。

イブニングに再びウッドロードにてライズを待つも、にわかに雲が拡がり風が吹き出して、雷が鳴り出し、川から引き上げ逃げるように宿所に帰る。
今日は結局一人の釣人にも出会わなかった。

8日間釣りをして、ネットで掬うサイズのレインボートラウトは1尾のみ。

 

明日は釣れるのだろうか・・・

 

つづく

 

 

 

 

 

 

River of the Covenant  ーヘンリーズフォーク釣行記 その3ー

DAY 4  JLY/13 2024

土曜日。

朝8時すぎにウッドロード到着。
駐車場に車を止め外に出ると、犬と一緒に散歩する青年に声をかけられる。
「昨日のイブニングはライズすごかったよ!オレはずっと川を見ていただけなんだけどね。」
そのライズに対峙して惨敗しましたと挨拶を返す。
青年の名前はテッド。昨晩はここでキャンピングカー泊をして、今日はここで釣りをせずマディソン川に行くという。何しにここに来たのかよくわからないと思いつつ世間話をする。
テッドがフライをくれた。ブドウ虫っぽいワームフライ。使うことはないと思いながらフライボックスに収める。
今日は予め入るポイントを決めている。川が大きくカーブした懐の一番深い場所を中心にライズ待ちをすることに決めている。身支度をして牧草地と湿地を歩いて川辺に立つ。
川の対岸に、父子のグループがやってきた。小学校低学年くらいの男の子とその父親のグループ。みな手にフライロッドを持っている。それぞれ分かれて川に入り釣りを始めた。父親たちは子供たちのサポート。子供たちはときおり小さなレインボートラウトを釣っている。そのたびに父親が声をかけている。アメリカではフライフィッシング人口が増えているそうだが、こういう風景を見ると、なるほどと納得。
9時過ぎぐらいから川の真ん中ほどでライズを見るようになる。川面を観察すると、メイフライのスペントやらニンフの抜け殻やらが時々流れている。小さいカディスも飛び始める。
沖のライズを狙いに行くと色々失敗しそうなので手前のバンク沿いでのライズを待つ。昨日フレディーにもバンク沿いのライズを狙えと教えられていたし、信頼おける釣人にもそう聞かされていたので忠実に従う。

陽気なテッド 相棒は3歳 なぜかここで釣をせずマディソンへ行くという・・・

ウッドロードの朝 このバンク沿いでライズを待つ

バンク沿いで静かなライズが始まる。鏡面のような川面に窪みをつけるようなライズを眺めているでもなく眺めながらフライをティペットに結ぶ。今日も#16のPMDクリップル。スピナーフォールを意識してそのパターンを使おうかなと思ったが、どうも産卵を終えたスピナーを食べているようではない気がしたので結局ここ数日使い続けているフライを結んだ。
ライズは頻繁でなく疎らというほどでもなくという感じで続いている。バンク際ギリギリではなく5メートルほど離れてのライズなのでバンク際に立ち込みクロスダウンにライズへのポジションを取ってフライをキャストする。当然、何事も起こらず流れ去るフライ。3回フライをキャストして全く反応がなかったのでキャストを止める。
川面を再度観察してみると、各種スペントやニンフの抜け殻やゴミが流れるなかに、小さなメイフライが羽根を立てて流れてゆくのを確認した。#20番程度か、それ以下のサイズ。フタバコカゲロウ?そうじゃないよね・・・カリベイティス?いやそれにしてはサイズが小さい・・・ベイティス?トライコ?よくわからない。
ともかく小さいメイフライのダンが流れているのはわかったので、日本から持参したフライの中でそれっぽいフライを選んでティペットに結ぶ。
ライズが頻繁になってきた。ただ静かさだけは変わらない。慎重にライズへフライをキャストする。何事もなく流れ去る。
もう一度キャストする。フライの軌道を修正してライズへ流し込む。
フライの真横でライズした。あぁ・・・、と思う間もなく、続けてフライを吸い込んだ。
反射的に竿を煽ってアワセを入れる。
何の感触もなく竿が空を切る。
水面では「ゴボッ!!」と派手な音と波紋。
リーダーとティペットとの結節部分から切れていた。
ファーストコンタクトの結末。

ファーストコンタクトの結末 

正午を過ぎ、川から引き上げるべく駐車場へと川辺を歩く。元々少なかった今日の釣人は誰もいなくなっていたが、一人だけ川に立ち込んで釣りをしている人がいた。
独特のキャストをする年配の釣人。
目が合って、挨拶をする。釣人はゆっくりと川から上がってきて、丁寧に挨拶をし手を差し伸べてきた。
「日本から長旅をして来たんだな」
「この川は難しい」
ドライフライで反応が良くないならニンフを使うといい」
と釣人。
ニンフは持っていないんですと言うと、釣人は自身のベストを探りフライボックスを取り出して、#18のフェザントテールを取り出し、私の手のひらに乗せてきた。
「これを使ってみなさい」
そして釣人はまたベストを探ると煙草を取り出し、1本を箱から抜き取ると口に咥えて、火をつけて紫煙をくゆらせた。
少し話をしてのち釣人は下流のポイントへ行くよと言って再び握手をして下流へ向かって歩き出した。
釣人の名前はレネ・ハロップ。

 

DAY 5  JLY/14  2024

日曜日。

フランス革命記念日の今日も朝からウッドロードへ。
駐車場で支度を始めようと車から降りてリアハッチを開けていると1台の車が止まり窓を開けて話しかけてきた。2人連れだった。
「おはよう!昨日イブニングどうだった?」
私は全くダメだったと答えると、
「俺らは21インチ釣ったぞ!」と返ってきた。そして、
「昨日使っていた竿ってバンブーロッドか?3ピースの?」
と聞かれたので、そうであることと、日本のビルダーが作った竿であることを伝えた。確かに昨日のイブニングの際にすれ違って軽く手を上げて挨拶したなこの人たちと・・・と思い出した。それにしてもわずか数秒で手にしていた竿がバンブーロッドで3ピースまで見分けるとはと、ちょっと驚いた。まあ一瞥してもわかるのだけれども、それにしてもよく見ているよなと思う・・・
この竿見ますか?と聞き返すと「見たい!」といって2人とも車から降りてきた。
運転手の方に私の蜉蝣ロッド8ft#5をアルミケースから取り出して渡している間に助手席の方は車のリアハッチを開けて自分のロッドを取り出してきた。それは一般的な六角のブランクではなく四角のバンブーロッドだった。
運転手の方はしきりと感嘆を述べていて、助手席の方は自身の竿について話をし、2人同時に違う話をするのを聞くというややこしい状態になる。四角ロッドはデンバーのビルダーに作ってもらったと確か言っているよな・・・早口で半分何を言っているのかわからないものの、そのことと日本の竿はいいな!ということを言っているのは理解できた。
そして2人ともごつい手を差し伸べて、ありがとう!と言って私と握手し、車に乗り込み土煙をあげ下流へ向かっていった。

今朝も昨日と同じ場所でライズを待つ。日曜日ということもあり敬虔なクリスチャンは教会へ行く時間であり安息日として休むべき日でもあるから川は空いているかと思ったが、そうでもなく昨日より釣人が多い。とはいえ日本のように密すぎてストレスを感じることは一切なく。お互いの距離はかなり保たれている。
昨日のファーストコンタクトはティペット切れだった。今日はそれを反省し、ティペットをリーダーと繋ぐ際は丁寧に慎重に結んだ。
腰を下ろし川面を観察していると、肩から下ろしたバッグに抱卵したスピナーが止まった。大きさは#16ほど。PMDかな?

ウッドロードの朝 日曜日

PMD?の抱卵したスピナー

 

昨日より遅い午前11時前からバンク寄りでライズが始まる。沖合いでは既に始まっていたが昨日と同じくそれには手を出さずやり過ごしていた。
昨日魚が吸い込んだ#18のメイフライのダンを模したフライを今日も結ぶ。そして静かなライズに対して静かにポジションを取る。
頃合を見計らってキャスト。フライをレーンに入れて流す。いつものように何事もなく流れ去る。キャスト、ドリフト、流れ去る・・・
これじゃないのか?と、結んでたフライを切り、PMDクリップルに結び直す。サイズは#18にした。
これをライズが盛んになったと思しき頃合にキャストしレーンに乗せてドリフトさせる。何事もなく流れ去るフライ。
もう一度キャストしレーンへフライを入れてドリフトさせる。
フライが窪みの中に消える。吸い込んだ・・・
すかさずアワセをくれる。
スジッ!とした手応え。
やや間があって、走り出した。
手許のラインが出ていきリールからラインが出はじめようとしたとき、15メーターぐらい先でジャンプ。
と同時ぐらいに手に感じていた魚の感触がなくなる。
またしてもティペット切れだった。昨日と同じくリーダーとティペットの結束部分で切れている。

またしても・・・


同じ事が2度続く。相手が大きかった、たまたま傷が入っていた、仕方がない・・・と、片付けてしまうことは出来ない。あとで検証しないと。

午後はボーズマンへ食料品の買出しに出かける。ラストチャンス付近にも小さなスーパーやガスステーション併設のデリで食料は手に入るが、後学のためもあり160マイルほどの距離を2時間半のドライブとなるがボーズマンへ行くことにした。今回は釣旅ではあるが、アメリカを見るという側面もあり、できるだけ色々見たいと思っている。
20号線を北上してウエスイエローストーンの街を抜けて191号線を北上する。一瞬だけワイオミング州に入り峠を越えるとボーズマンまではギャラティン川沿いに走る。日曜日ということもあり川には釣人(もちろんフライフィッシャー)が多く、駐車スペースにもそれとわかる車が必ず止まっている。老若男女問わずフライフィッシャーが川で釣りをしている風景を見ながら走る。本当に男女問わず釣りをしている。そしてそれら釣人の隙間で、川遊びやラフティングを楽しんでいる人たち・・・
ボーズマンの街に近付くと信号が増え始める。車線も増えて速度制限も低くなり、ちょっと気を使いながらの運転となる。とはいえ概ね運転マナーがいいので慣れない私でも走りやすい。日本より走りやすいのでは?とすら思う。右側通行も左ハンドルも全く気にならない。が、こういう時こそ事故を起こしやすいので要注意と自身に言い聞かせる。
巨大なスーパーマーケットに入り買い物をしてボーズマンの街を離れ来た道を帰る。
帰りにサンダーストームに遭遇しながら夕方6時ごろにラストチャンスに入る。宿所には行かずそのままイブニングをしにウッドロードへ。

191号線沿いを流れるギャラティン川の源流部 ヘンリーズフォークとは違い日本の川に近い印象を受けた もちろん有名な川

ボーズマンにて

ウッドロード近辺でもサンダーストームがあったのか土煙が舞い上がる悪路が湿っていて走りやすい。もちろんモーグルは相変わらず酷く油断すると底を擦る。
結局、午後9時半ごろまでイブニングの釣りをしたが、今日も小さなレインボートラウトを釣ったのみで何も無かった。心なしか大物とおぼしきライズも見なかった。
とぼとぼと川から引き上げて宿所に帰る。いつものように昼飯の残り半分のサンドイッチにカップヌードルで晩飯とした。
寝る前にティペット切れ検証のためにノットに関しての意見を聞き、自身のノットと強度を比較し、自身のそれまで行っていたノットが完全ではなかったことを確認した。それなりにショックではあったが、冷静に検証結果を受け入れて、明日に備えよう・・・

ウッドロード5日目のイブニング


明日は釣れるのか?

つづく