River of the Covenant ーヘンリーズフォーク釣行記 その8ー
DAY 12 JLY/21 2024
日曜日。
今朝も風が強いが昨日よりは和らいでいる。
湯を沸かしコーヒーを淹れて飲む。
昨夜荷物の整理をしてすっきりと片付いた部屋の中で、今日の釣りの準備をする。
8時過ぎに宿所を出る。
いつものようにオズボーンブリッジを渡ってハリマン州立公園へ入り、ミリオネアプール近くの駐車場に車を止める。
まずは状況確認のためにミリオネアプールを見渡せる場所へ向かう。
いつものライズポイントは風の影響がまだあり波立っている。そこには誰もいなかったが、手前の風をかわせるポイントには先客があり、そこに今まさにポイントへ入ろうとしている釣人もあり、もう入る余地がない。
どうしたものか・・・と考えた末、ラストチャンスの駐車場から歩いてボーンフィッシュフラットまで行こうと思いつき、来た道を引き返す。
オズボーンブリッジを再度渡ってラストチャンス最下流の駐車場へ。
駐車場には何台ものSUVやピックアップトラックや巨大なキャンピングカーが止まっていた。そして今まさにランチへの柵を3人の釣人が開けて入っていくところだった。
今日は午後までの釣り。今日は自分の釣りより、出会う釣人とのコミニケーションをメインとすると決めている。インタビューというほどのものではないが、ここ数日余り釣人と会わなかったので今日は積極的に挨拶をして話をしようと決めていた。とはいえ乏しい言語能力のためコミニケーションの限界値も低いが、そこはまあ何とかなると思っている。今日まで何とかやり過ごしてきたのだからどうにでもなるだろうと、根拠なき自信。
「今日はホッパーとビートルの日だろう・・・」
「バグ(水生昆虫)がない!ホッパーじゃないか?」
「ホッパーやろ!今日は!」
「ホッパーじゃけぇのぉ今日は・・・」
すれ違う釣人がことごとくホッパーという。ホッパー、バッタのことだが、要は水生昆虫ではなく陸生昆虫をマスたちは捕食しているということなのだろうと理解した。
何人もの釣人とすれ違い簡単な会話を交わしたが、その中でも数人とはちょっと話し込んだ。そういう釣人には先日釣ったレインボートラウトの画像を見せると更に話が弾んだ。
「いいサイズ!フライは何?え?あ~PMDクリップルか!好きなフライ!」
「オレの知人が数日前ここでライズを釣ったのは#14のコンパラダンだった。ん?そう、コンパラダン。知ってるだろ?」
「あ~あの対岸で釣ってたのはお前か!見たよ釣っている姿!」
「日本から来た?おれ日本に2回旅行したよ。トウキョウ、キョウト・・・」
「ケーンロッド(竹竿)使っているのか。オレ?これはグラスロッド。一つ前のオービスのグラスロッド。このアクションが好きでさぁ・・・」
「バグがない!」
概ね、よく釣ったなというニュアンスの言葉をもらったあとにこういうやり取りになった。コンパラダンという名フライの本当の発音がわかったのはちょっとした収穫だ。
とにかく日曜日のボーンフィッシュフラットは釣人が多いので話し相手に困らない。すれ違う釣人と話をするだけで1日が終わりそうだと思いつつ、適当な場所から川に入って、金曜日に釣ったポイントへライズを探しながら向かう。風はさらに和らぐ。
金曜日のライズポイント、対岸のバンク際まで川を横断して着いたが、ここまで一切ライズがなかった。そういえば今日はあれほどうるさく思ったカディスの群雄飛行がない。川面にもカゲロウの産卵後の個体やすでに死んだ個体が流れていない。確かにバグがない。そうか、だから陸生昆虫か。風も吹いたのでそれに飛ばされて流されるやつもあっただろうから、マスはそれを食っているのだろう。
ホッパーは持っていないので、アントかビートルで何とかならないかと思いながらも、ティペットの先には相変わらず#18のPMDクリップルを結んでいる。
ボーンフィッシュフラットからさらに下流のレールロード橋がみえる辺りまで来て、ようやくライズを発見した。それは川の真ん中辺りでのライズ。
それを狙うべく川に立ち込みポジションを取る。
安定してライズをしているので、タイミングを見計らってフライをキャストしレーンに入れてドリフトさせる。
あっさりとフライを咥えた。
すかさずアワセをくれる。
すぐに飛び上がる魚体。
プルプルとした感触が伝わる・・・
チビレインボートラウトだった。
それ以降ライズがなく諦めて川から引き上げる。そして駐車場へと歩き出す。
「どうやった?」
同じく川から上がって様子を見ていた釣人に声をかけられる。
先ほどのチビの釣果を告げると、
「ホッパー使え!え?ホッパー持っていない?じゃああげるよフライ!」
と言って自身のバックからフライボックスを取り出して大きなバッタを模したフライを摘み出して、私の手に置いた。
「これを使ってバンク際とか流れの中を釣ってみろ。とにかくしつこく流してみろ。オレは朝からこの釣り方で2尾掛けて1尾獲った。だからやってみろよ。」
と、えらく力の入った説明をされたので、気押されてしまい、ティペットを太いものに換えてから貰ったフライを結んだ。
そして、目の前のちょっと強い瀬を釣ってみる事にした。
日本の里川の大きな瀬を釣る感覚で魚の付いていそうな流れの筋にホッパーを投げてナチュラルドリフトさせると、いきなり反応がありフライが咥え込まれた。
え?と半信半疑でアワセをくれると、先ほどと同じような感触が伝わってきた。
チビレインボートラウトだった。
これって、釣り上がりよな・・・ブラインドの叩き上がりの釣りよな・・・
折角フライをもらったので一応やってはみたものの、この釣りをしにヘンリーズフォークまで来たのではないと、これ以上はやらないと決めて川から引き上げる。フライを切り、丁寧に水気を取りフライボックスに収納した。そして駐車場へ歩き始める。
午後2時過ぎくらいに駐車場に着くと先ほどのホッパー氏が着替えをしていた。
そこで釣果報告をしてお礼を言う。
「また来年会おう!」
と言われた。
それに手を上げて応え、着替えを済ませてウェダーとウェーディングシューズをトイレの前にある井戸の手動ポンプを動かして洗い、駐車場から車を出した。
20号線に合流し宿所へ帰る。
終わった。
12日間の釣りが、終わった。
宿所に帰り、シャワーを浴びて12日間延ばしたままだった口髭を剃り、グリルへ行き遅い昼食をとる。
明日未明、午前2時にはここを引き払い、160マイルの道のりを走りボーズマンの空港へ向かうことになっている。
もうその準備はしてあるが、釣り道具はまだ片付けていないので食後は淡々と片づけをする。
何気なくフライボックスを開けてみる。4年前からコツコツと巻いて貯めてきたフライも結構隙間が出来ている。とはいっても隙間があるのは#18のPMDクリップルだけだが・・・
レインボートラウトの口に掛けたフライ4本は自身の記念なのできちんと梱包して鞄に仕舞い込む。
全ての片付けが終わった。生活感のあった自室が借りたときの状態に戻る。
夕方、車にガソリンを入れないとならないのでラストチャンス唯一のテキサコ石油のガスステーションへ向かう。
なんとなくミリオネアプールが見たくなり、ガスステーションを通り過ぎてオズボーンブリッジを渡ってハリマン州立公園へ入る。
いつものように駐車場に車を止めてミリオネアプールを見渡す場所へ歩く。
夕方のミリオネアプールには誰もいなかった。
しばらく眺めてから帰る。
ハリマン州立公園から20号線に出て、オズボーンブリッジを渡りガスステーションに入りガソリンを入れる。
ガソリンをフルに入れて宿所に帰る。
なんとなく宿所の向かい、20号線を挟んで対岸の集落に沈む夕日を眺める。
落日を見届けてから自室に戻り、夕食を食べて荷物を車に積み込む。
スマートフォンのタイマーをセットしベットに横になる。
明日の未明、午前2時にここを出る。
つづく