River of the Covenant ーヘンリーズフォーク釣行記 その3ー
DAY 4 JLY/13 2024
土曜日。
朝8時すぎにウッドロード到着。
駐車場に車を止め外に出ると、犬と一緒に散歩する青年に声をかけられる。
「昨日のイブニングはライズすごかったよ!オレはずっと川を見ていただけなんだけどね。」
そのライズに対峙して惨敗しましたと挨拶を返す。
青年の名前はテッド。昨晩はここでキャンピングカー泊をして、今日はここで釣りをせずマディソン川に行くという。何しにここに来たのかよくわからないと思いつつ世間話をする。
テッドがフライをくれた。ブドウ虫っぽいワームフライ。使うことはないと思いながらフライボックスに収める。
今日は予め入るポイントを決めている。川が大きくカーブした懐の一番深い場所を中心にライズ待ちをすることに決めている。身支度をして牧草地と湿地を歩いて川辺に立つ。
川の対岸に、父子のグループがやってきた。小学校低学年くらいの男の子とその父親のグループ。みな手にフライロッドを持っている。それぞれ分かれて川に入り釣りを始めた。父親たちは子供たちのサポート。子供たちはときおり小さなレインボートラウトを釣っている。そのたびに父親が声をかけている。アメリカではフライフィッシング人口が増えているそうだが、こういう風景を見ると、なるほどと納得。
9時過ぎぐらいから川の真ん中ほどでライズを見るようになる。川面を観察すると、メイフライのスペントやらニンフの抜け殻やらが時々流れている。小さいカディスも飛び始める。
沖のライズを狙いに行くと色々失敗しそうなので手前のバンク沿いでのライズを待つ。昨日フレディーにもバンク沿いのライズを狙えと教えられていたし、信頼おける釣人にもそう聞かされていたので忠実に従う。
バンク沿いで静かなライズが始まる。鏡面のような川面に窪みをつけるようなライズを眺めているでもなく眺めながらフライをティペットに結ぶ。今日も#16のPMDクリップル。スピナーフォールを意識してそのパターンを使おうかなと思ったが、どうも産卵を終えたスピナーを食べているようではない気がしたので結局ここ数日使い続けているフライを結んだ。
ライズは頻繁でなく疎らというほどでもなくという感じで続いている。バンク際ギリギリではなく5メートルほど離れてのライズなのでバンク際に立ち込みクロスダウンにライズへのポジションを取ってフライをキャストする。当然、何事も起こらず流れ去るフライ。3回フライをキャストして全く反応がなかったのでキャストを止める。
川面を再度観察してみると、各種スペントやニンフの抜け殻やゴミが流れるなかに、小さなメイフライが羽根を立てて流れてゆくのを確認した。#20番程度か、それ以下のサイズ。フタバコカゲロウ?そうじゃないよね・・・カリベイティス?いやそれにしてはサイズが小さい・・・ベイティス?トライコ?よくわからない。
ともかく小さいメイフライのダンが流れているのはわかったので、日本から持参したフライの中でそれっぽいフライを選んでティペットに結ぶ。
ライズが頻繁になってきた。ただ静かさだけは変わらない。慎重にライズへフライをキャストする。何事もなく流れ去る。
もう一度キャストする。フライの軌道を修正してライズへ流し込む。
フライの真横でライズした。あぁ・・・、と思う間もなく、続けてフライを吸い込んだ。
反射的に竿を煽ってアワセを入れる。
何の感触もなく竿が空を切る。
水面では「ゴボッ!!」と派手な音と波紋。
リーダーとティペットとの結節部分から切れていた。
ファーストコンタクトの結末。
正午を過ぎ、川から引き上げるべく駐車場へと川辺を歩く。元々少なかった今日の釣人は誰もいなくなっていたが、一人だけ川に立ち込んで釣りをしている人がいた。
独特のキャストをする年配の釣人。
目が合って、挨拶をする。釣人はゆっくりと川から上がってきて、丁寧に挨拶をし手を差し伸べてきた。
「日本から長旅をして来たんだな」
「この川は難しい」
「ドライフライで反応が良くないならニンフを使うといい」
と釣人。
ニンフは持っていないんですと言うと、釣人は自身のベストを探りフライボックスを取り出して、#18のフェザントテールを取り出し、私の手のひらに乗せてきた。
「これを使ってみなさい」
そして釣人はまたベストを探ると煙草を取り出し、1本を箱から抜き取ると口に咥えて、火をつけて紫煙をくゆらせた。
少し話をしてのち釣人は下流のポイントへ行くよと言って再び握手をして下流へ向かって歩き出した。
釣人の名前はレネ・ハロップ。
DAY 5 JLY/14 2024
日曜日。
フランス革命記念日の今日も朝からウッドロードへ。
駐車場で支度を始めようと車から降りてリアハッチを開けていると1台の車が止まり窓を開けて話しかけてきた。2人連れだった。
「おはよう!昨日イブニングどうだった?」
私は全くダメだったと答えると、
「俺らは21インチ釣ったぞ!」と返ってきた。そして、
「昨日使っていた竿ってバンブーロッドか?3ピースの?」
と聞かれたので、そうであることと、日本のビルダーが作った竿であることを伝えた。確かに昨日のイブニングの際にすれ違って軽く手を上げて挨拶したなこの人たちと・・・と思い出した。それにしてもわずか数秒で手にしていた竿がバンブーロッドで3ピースまで見分けるとはと、ちょっと驚いた。まあ一瞥してもわかるのだけれども、それにしてもよく見ているよなと思う・・・
この竿見ますか?と聞き返すと「見たい!」といって2人とも車から降りてきた。
運転手の方に私の蜉蝣ロッド8ft#5をアルミケースから取り出して渡している間に助手席の方は車のリアハッチを開けて自分のロッドを取り出してきた。それは一般的な六角のブランクではなく四角のバンブーロッドだった。
運転手の方はしきりと感嘆を述べていて、助手席の方は自身の竿について話をし、2人同時に違う話をするのを聞くというややこしい状態になる。四角ロッドはデンバーのビルダーに作ってもらったと確か言っているよな・・・早口で半分何を言っているのかわからないものの、そのことと日本の竿はいいな!ということを言っているのは理解できた。
そして2人ともごつい手を差し伸べて、ありがとう!と言って私と握手し、車に乗り込み土煙をあげ下流へ向かっていった。
今朝も昨日と同じ場所でライズを待つ。日曜日ということもあり敬虔なクリスチャンは教会へ行く時間であり安息日として休むべき日でもあるから川は空いているかと思ったが、そうでもなく昨日より釣人が多い。とはいえ日本のように密すぎてストレスを感じることは一切なく。お互いの距離はかなり保たれている。
昨日のファーストコンタクトはティペット切れだった。今日はそれを反省し、ティペットをリーダーと繋ぐ際は丁寧に慎重に結んだ。
腰を下ろし川面を観察していると、肩から下ろしたバッグに抱卵したスピナーが止まった。大きさは#16ほど。PMDかな?
昨日より遅い午前11時前からバンク寄りでライズが始まる。沖合いでは既に始まっていたが昨日と同じくそれには手を出さずやり過ごしていた。
昨日魚が吸い込んだ#18のメイフライのダンを模したフライを今日も結ぶ。そして静かなライズに対して静かにポジションを取る。
頃合を見計らってキャスト。フライをレーンに入れて流す。いつものように何事もなく流れ去る。キャスト、ドリフト、流れ去る・・・
これじゃないのか?と、結んでたフライを切り、PMDクリップルに結び直す。サイズは#18にした。
これをライズが盛んになったと思しき頃合にキャストしレーンに乗せてドリフトさせる。何事もなく流れ去るフライ。
もう一度キャストしレーンへフライを入れてドリフトさせる。
フライが窪みの中に消える。吸い込んだ・・・
すかさずアワセをくれる。
スジッ!とした手応え。
やや間があって、走り出した。
手許のラインが出ていきリールからラインが出はじめようとしたとき、15メーターぐらい先でジャンプ。
と同時ぐらいに手に感じていた魚の感触がなくなる。
またしてもティペット切れだった。昨日と同じくリーダーとティペットの結束部分で切れている。
同じ事が2度続く。相手が大きかった、たまたま傷が入っていた、仕方がない・・・と、片付けてしまうことは出来ない。あとで検証しないと。
午後はボーズマンへ食料品の買出しに出かける。ラストチャンス付近にも小さなスーパーやガスステーション併設のデリで食料は手に入るが、後学のためもあり160マイルほどの距離を2時間半のドライブとなるがボーズマンへ行くことにした。今回は釣旅ではあるが、アメリカを見るという側面もあり、できるだけ色々見たいと思っている。
20号線を北上してウエストイエローストーンの街を抜けて191号線を北上する。一瞬だけワイオミング州に入り峠を越えるとボーズマンまではギャラティン川沿いに走る。日曜日ということもあり川には釣人(もちろんフライフィッシャー)が多く、駐車スペースにもそれとわかる車が必ず止まっている。老若男女問わずフライフィッシャーが川で釣りをしている風景を見ながら走る。本当に男女問わず釣りをしている。そしてそれら釣人の隙間で、川遊びやラフティングを楽しんでいる人たち・・・
ボーズマンの街に近付くと信号が増え始める。車線も増えて速度制限も低くなり、ちょっと気を使いながらの運転となる。とはいえ概ね運転マナーがいいので慣れない私でも走りやすい。日本より走りやすいのでは?とすら思う。右側通行も左ハンドルも全く気にならない。が、こういう時こそ事故を起こしやすいので要注意と自身に言い聞かせる。
巨大なスーパーマーケットに入り買い物をしてボーズマンの街を離れ来た道を帰る。
帰りにサンダーストームに遭遇しながら夕方6時ごろにラストチャンスに入る。宿所には行かずそのままイブニングをしにウッドロードへ。
ウッドロード近辺でもサンダーストームがあったのか土煙が舞い上がる悪路が湿っていて走りやすい。もちろんモーグルは相変わらず酷く油断すると底を擦る。
結局、午後9時半ごろまでイブニングの釣りをしたが、今日も小さなレインボートラウトを釣ったのみで何も無かった。心なしか大物とおぼしきライズも見なかった。
とぼとぼと川から引き上げて宿所に帰る。いつものように昼飯の残り半分のサンドイッチにカップヌードルで晩飯とした。
寝る前にティペット切れ検証のためにノットに関しての意見を聞き、自身のノットと強度を比較し、自身のそれまで行っていたノットが完全ではなかったことを確認した。それなりにショックではあったが、冷静に検証結果を受け入れて、明日に備えよう・・・
明日は釣れるのか?
つづく