自転車と釣りと余白と

自転車と釣りと周辺の余白について

River of the Covenant ーヘンリーズフォーク釣行記 その6ー

 DAY   10   JLY/19    2024

金曜日。

釣行10日目の朝、快晴。
いつも数台の車が止まっているレイルロードランチの郵便受け前の駐車場に1台の車もなかったので反射的に駐車場に入る。これで今日のポイントがボーンフィッシュフラットと言われる広大なプールに決まった。ヘンリーズフォークの中でもとりわけ有名なポイントへ入るのは初めて。昨日いいサイズのレインボートラウトを釣ったミリオネアプールの上流となるそのポイントへは1.2マイルほど牧草地を歩いて向かう事になる。
大型トラックやキャンピングカーが行き交う20号線を横断し、柵を開けて真っ直ぐに伸びた轍を真っ直ぐに歩く。
30分ぐらい歩いたら川に架かる橋に着く。その橋の付近はこの川にしては珍しく急な流れとなっている。橋を渡って右に、つまり上流へと向かう。
早速ライズ待ちの釣人がいる。柵に自転車が立てかけてある。この川でライズを探して土手を歩き回ったりポイント移動をしたりするのは距離もあり時間もかかるので自転車を移動手段として活用するのはいいアイデアだと思った。残念ながら私は自転車を持っていないのでひたすら徒歩でライズを探すしかない。
やがて広大なプールに出た。ボーンフィッシュフラット。
中洲やバンクに隠れて見えなかった釣人がそれなりにいるのがわかった。駐車場に車がなかったから人も少ないのかと思ったがそうではなく、上流のラストチャンス側の駐車場からここまで来ているようだった。それにしても広いフラットな流れ。
中洲や対岸では立ち込んで釣りをしている人とバンク際でライズを探している人が合計で7人。こちら側には今の所さっきの自転車氏以外は私一人。ただ私のはるか上流に釣人が1人いるが川から引き上げている最中だった。
見るでもなく川を見ながらゆっくりと上流へ歩いていると、川のど真ん中でライズ。
それを狙おうかと思ったが、丁度対岸でライズ待ちしてた釣人が同じくそのライズを見つけたようで、川に入りライズしたポイントへ歩き始めた。なれた釣人らしく非常に静かに慎重にライズへと歩を進めている。やがて川の真ん中あたりに到着したが、水深が膝下ぐらいしかない。なるほどボーンフィッシュフラットの名前はこれから来ているのかと納得。釣人はライズに対してフライをキャストしていたがそれを釣る事はなかった。

対岸の釣人の釣りを見ているとき、20メーターぐらい上流のバンク際で小さいライズを発見したので、それを狙う事とした。午前10時2分。
下手なアプローチをすると一瞬で逃げ去るだろうと、バンクに横這いになり、ジワジワとライズににじり寄る。投げられると判断した距離、8メーターぐらいまでにじり寄れたので、フライを投げる準備をする。アップストリームキャストしか出来ないが、フライラインは水面に置かずバンクに乗せるようにキャストし、できるだけフライが自然な流れになるようにしないとならないと自身に言い聞かせる。幸い、ライズは頻繁なので位置の特定はしやすい。また何を捕食しているのかはわからないが、昨日までの経験で#18のPMDクリップルをティペットに結んである。
タイミングを見計らって、キャスト。
フライラインはバンクに、リーダーとティペットは水面にある状態でフライがライズポイントへ流れる。
何も起こらない。
フライが視界に入っていないわけがないと思うのだが何も起こらない。
そしてライズは沖に移動した。
間合いを見て再度キャスト。
何事も起こらない。
そして更にライズは沖に移動。
仕方なく、バンクを降りて川に立ち込む。
ライズは更に沖に移動し、やがて消えてしまった。

仕方がないので立ち込んだまま上流へ歩き、他のライズを探す。が、ライズは見つからない。そうそうライズがあちこちであるわけではないこの状況で、先ほどのライズに対処できなかったのは経験不足であるのはともかくとしても、残念だと少し思った。
後ろを振り返り先ほどのバンク際を見ると、ライズ。
戻ってきたのか?いや別の魚か?
ともかく先ほどの場所でのライズ。当然それを狙う。
先ほどと違い下流へ向けてフライをキャストしないとならないポジション。ダウンキャストあるいはダウンクロスへのキャスト。ちょっと厄介だ。
最初にライズを見つけてから1時間以上経過している。同じ魚ではないかもしれないが、同じ場所で同じようなライズをしているので同じ魚の可能性も充分あると思い込む。そうであって欲しい・・・
静かに下流へ歩を進めながライズとの間合いを詰めてゆく。先程よりもライズの頻度は下がっているが、場所は大きく移動していない。ただバンクから少し離れて沖に移動した。
10メーターぐらいまで間合いを詰めた。このぐらいの距離が私自身釣りのしやすい距離。キャスティングもしやすくフライを自然に流すための管理もしやすい距離。それ以上の距離になると精度が落ちて半分ギャンブルになる。それ以上短いのはまだ対処できるが何となくやり辛い。なので出来るだけ自分のやりやすい距離をとって釣りをするように心がけている。
少なくなっていたライズの位置を再度確認して、そのレーンにフライを流すべく、キャストする。
1度目は何事もなくフライが流れ去る。
2度目にライズの主はフライを吸い込んだ。
すかさずアワセをくれる。
ズシッ!とした手応えが伝わる。
ゴボッ!と音を立てて水面をかき乱す魚。
不思議とジャンプはせず、その場で2度ほど暴れると一気に下流へ走り出した。
悲鳴に近いクリック音を奏でるセントジョージⅢ。ラインが真っ直ぐに下流へ伸びている。もうバッキングラインまで出ている。
止まった。
すぐにリールを巻き始める。が、手に感じていた魚の重みがなくなる。
外れたか?と思ったがそうではなく上流に、つまり私に向かって走ってきていた。
必死にリールを巻き取る。やがて手に魚の重みが回復し竿が曲がる。針が外れなくて良かったと安堵しながら、ジワジワと寄せにかかる。
竿のバットを矯めて魚を寄せる。何度か暴れる素振りを見せたが何とか凌ぐ。
背中のネットをDリングから外して川の中に捨てる。ランヤードで繋いでるネットは川の流れに波を立てて引かれる状態となる。ここまでは上手くいっている。
魚がハッキリと見えた。綺麗なレインボートラウト。そして昨日釣ったレインボートラウトよりも明らかに大きいのがわかる。
最後の抵抗をなんとかやり過ごし、ネットを差し出す。そこに誘導しようとするも、魚体が大きくて上手く入らない・・・この瞬間はいつも緊張を通り越して恐怖だ。
頭からネットに入った。
魚体がネットの中に完全に収まった。
妙に冷静に、水から出すな、バンク際まで移動し、記念撮影できる場所を探して素早く撮影して元気なうちにリリースしないとと、思った。
ふと遠い対岸を見る。
川の真ん中でライズに対峙していた釣人2人が対岸のバンクに上がっていて、どうやら私の一部始終を観ていたようだった。そして顔を向けた私に手を振っている。
魚を見せたかったが水から上げるのは魚を弱らせてしまいそうなので、代わりに右手に持った竿を高く掲げて返答とした。

ライズの主

#18のPMDクリップルはネットの中で外れていた。もちろんバーブレスフック、つまりカエシのない針を使っている。こんな小さいフックでよく持ち堪えたと思った。小さい針ほどちゃんと掛かってしまえば外れに難いものだとは思うが、それにしてもよく持ち堪えてくれたと思う。6Xのティペットも同じく。
サッと撮影し、魚体を両手で支えて泳ぎだすのを待つ。
ゆっくりと、本当にゆっくりと、しかし力強く泳ぎだして、消えて行った。
正午を過ぎていた。今日はこれで帰ることにした。

昨日今日と良い魚を手に出来た。ビギナーズラック。
10日ほど釣りをしただけで何かがわかるわけではないのは重々承知している。だいたい半世紀ここで釣りをしている人ですら難しいというのにフラッと訪れた釣人の私に何がわかるというのか・・・と、昼食後自室で唐突に思った。
ヘンリーズフォークでライズに対峙したい、ライズを釣りたいと切実に想ったと自分自身では思い込んでいるけれども、本当のところはわからない。
わからないまま、毎日目の前のライズに対峙している。

有名なレールロードランチの郵便受けと真っ直ぐな道が続くゲート

ボーンフィッシュフラットの真ん中でライズを狙う釣人

明日は釣れるのだろうか?

つづく