River of the Covenant ーヘンリーズフォーク釣行記 その4-
DAY 6 JLY/15 2024
月曜日。
夜明け前に起きる。
昨夜寝る前にこれまでの事を思い返していた。
ヘンリーズフォークでライズに対峙したい、釣りがしてみたという抽象的な思いを、ヘンリーズフォークへ行く、ライズを釣るのだと具体化し実行に移したのは2019年の秋のことだった。何から手をつけていいのか?と考えた末、まずは蜉蝣ロッドの石田さんに竿の製作依頼から始めた。そして翌2020年の7月にヘンリーズフォークへ行くと決め旅行代理店へ各種手配の相談を始めた。
明けて2020年3月。急激に世界情勢が変化し、海外渡航が出来なくなり、否応なしにヘンリーズフォークへの釣行は延期となった。自身の身の回りも色々変化し、暫くは何も出来ないなと、出来上がった蜉蝣ロッド8ft#5を手許にしながらも、計画を一旦白紙とした。
それから4年の歳月が流れ、今ここにいて、ライズに翻弄されている・・・
今朝は曇り空で陽が差さない。外に出てみると寒い。気温12度。ロッキー山脈の只中、標高1800メーターの集落ラストチャンス。
いつものオックスフォードタイプのシャツの上にフリースを羽織って車に乗り込み、ウッドロードを目指す。
どんよりと曇った空を映す川面のウッドロード。いつものようにバンク際でのライズを待つ。陽射しがないと寒い。
午前9時過ぎ、いつものように川の真ん中あたりでライズが始まる。午前10時過ぎにバンク寄りでもライズが始まった。リールからラインを引き出しガイドに通し、リーダーにティペットを繋ぐ。4xリーダーの先端をカットし4x、5xとナイロンティペットを接いでメインのティペットは6xフロロカーボン。昨日まで2回連続でティペット切れをおこしたのはいずれも5xと6xの接続部分だった。ノットが出来ていない、強度が出ていない・・・昨夜ノットを見直したときにそれを確認した。これまでこのように切れたことが殆どなかったので戸惑っていたが、事実として強度が出ていなかったのを自身の手で確認したので、痛い教訓とし今日はきちっと結ぶ。
ティペットに#16のPMDクリップルを結んでライズに対峙し、キャストを始める。
当然のように無視され、ライズが止まる。
午前11時過ぎ、バンク際に立ち込んでいる自身の正面10メーターほどでライズ。いつものように川面に窪みをつけるような静かなライズ。しかし単発ではなくそれなりに頻繁にしている。が、上下左右に微妙に動きながらのライズ。
ライズへのポジションはサイドしか取れないが、フライをナチュラルドリフトさせるには自身では比較的やりやすいポジション。
間合いを見計らってフライをキャストする。
流れていたフライをライズの主が吸い込んだ。
竿を煽ってアワセを入れる。確かな手応えを感じる。
すぐに沖へ走り出した。足元に溜めていたラインはすでになく、セントジョージⅢが音を立てて逆転しラインを吐き出す。ジャンプはしない。
魚が走るのを止める。竿を矯めリールを巻き寄せにかかる。蜉蝣ロッドが綺麗な曲線を描く。
ティペットに藻が絡まっている。その先に銀色をした魚体がある。
魚の頭を川面から出し空気を吸わせ、差し出したネットに誘導し掬う・・・
「サイズは?大きい?」
私の下流100メートルぐらいにいた釣人が、私がネットで魚を掬い顔を上げたときに、こちらへ手を振りながらそう聞いてきた。
私は、そんなに大きくなく、14~15インチ程度だと大声で伝えた。そして続けて、この国で初めて手にしたレインボートラウトだとも伝えた。小さなレインボートラウトはいくつも釣ってはいたが、ヘンリーズフォークでは何となくカウントできないんじゃないかと思っていたので、そう伝えた。
「おめでとう!」
と返ってきた。
魚を水面から出さないように気をつけながらバンク際により、素早く記念撮影をして口から針を外し、水中で魚体を支えて泳ぎ出すのを待つ。
やがて、ゆっくり泳ぎ出すと沖へと消えていった。
昼に宿所に帰る。今日はいつものグリルが定休なので昨夜のうちにサンドイッチを買っておき冷蔵庫に入れておいたのをレンジで少し温めてから昼食とした。
釣りには直接関係のない話だが、アメリカの物価高と劇的なほどの円安を憂慮し、できるだけ自炊しようと心がけてここに来たものの、やはり面倒なので初日に宿所併設のグリルでサンドイッチを注文してしまってからは、結局毎日通う事となった。そしてアメリカでもう一つ憂慮していた食事・・・ありていに言えば食事が口に合わないことは、意外と口に合った。過去のアメリカ滞在では口に合わない食事も多かったので渡米前からげんなりしていたのだが、杞憂だった。むしろ地元のおばちゃんやバイトの子があくせく立ち回って働くグリルのサンドイッチやピザはとても美味しく、毎日楽しみにすらなっていた。量が多いので昼夜兼用とすると値段も許容できた。
食後、少し午睡をしてのち車を走らせて川を見に行く。これまでミリオネアプールとウッドロードしか見ていないので、ラストチャンス周辺のヘンリーズフォークを見て回ることにした。
ラストチャンスの入口付近の川は流れがちょっと強く川面も若干波立っていて平瀬といった感じだった。所々に岩がありペリカンが止まっていたりする。ヘンリーズフォークにはカモメやペリカンが普通にいる。この辺りには有名な釣り客向けの老舗ロッジがある。
20号線を南下しトラウトハンターショップを過ぎて右に入る細道をゆくと、レイルロードランチ上流部の駐車場に着く。ここには有名な展望デッキがあり川を一望できるようになっている。デッキの手前にはこの川のことやハリマン州立公園のこと、この川でなぜフライフィッシングとキャッチ&リースだけが許可されているのかなどの説明が書かれたボードが設置してある。またトイレなどの設備もあり、トレーラーハウスやキャンピングカーでの旅人向けの給水所と汚水汲み取り設備?もある。20号線を往来するそれらの車はとにかく巨大で圧倒される。家が走っているようなものだ・・・
再び20号線に戻り、ウッドロードへ行く交差点を過ぎるとオズボーンブリッジを渡る。オズボーンブリッジも有名な場所で、駐車場とトイレが完備されている。ここはドリフトボートを降ろす場所でもあり、いつもガイドがクライアントを乗せてここからヘンリーズフォークを下ってゆく。意外に思ったのが、ヘンリーズフォークでもドリフトボートで釣りをする人が多いこと。ウッドロードでライズを待っているとボートが流れながら要所要所で釣りをするのに遭遇する。
イブニングは再びウッドロードへ。
連日イブニングの釣りは惨敗だがこの日も惨敗だった。気のせいかライズも少なかった。
DAY 7 JLY/16 2024
火曜日。
今朝はミリオネアプールへ。誰もいない。
ライズを探して上流のレイルロードランチ橋まで歩くもライズははく引き返す。
ただバンク寄りを泳ぐレインボートラウトはいた。
戻って場所を変えようと思って引き返す途中、いつもの箇所でライズしているのを見つける。
それを狙うべく川に入りしばらく観察した後にキャストを始める。
結局このライズは釣る事が出来なかった。
イブニングはいつものウッドロードへ。
この日も惨敗で終わった。というより、ライズも釣人も極端に少なかった。
特記するべき事もなく一日が終わる。
DAY 8 JLY/17 2024
水曜日。
今朝もウッドロードへ。
朝からいつものようにバンク際でライズを待つもいいライズがないまま正午を迎える。
全くライズがないわけではないが極端に単発かつ位置不特定でのライズに何も出来ず惨敗。
イブニングに再びウッドロードにてライズを待つも、にわかに雲が拡がり風が吹き出して、雷が鳴り出し、川から引き上げ逃げるように宿所に帰る。
今日は結局一人の釣人にも出会わなかった。
8日間釣りをして、ネットで掬うサイズのレインボートラウトは1尾のみ。
明日は釣れるのだろうか・・・
つづく