自転車と釣りと余白と

自転車と釣りと周辺の余白について

「ヘンリーズフォーク」への事始め 個人的な事柄

「ヘンリーズフォークでライズに没頭したい」

 

長年そう思い続けるばかりで、具体的な行動に起こさなかった。そのうちに、またいつか、という具合に想像の域を出ない物語でしかなかった。アメリカ・アイダホ州のスネークリバー水系、テイルウォーター、水草が生い茂る川床、PMDのハッチ、ドレイクのハッチ、生ける伝説のレネ・ハロップに会えるかもしれない(私個人としてはレネよりマイク・ローソンの印象であるヘンリーズフォーク)、世界一難しいとされるライズ・・・などのワードを並べるだけで実際に事を起こしそうになり、なんとなく沙汰止みとなり、また物語を練ったりと。

丁度20年前、南米アマゾン河の支流の支流の支流辺りで、ピーコックバスや得体の知れない怪魚を相手にフライを投げていた頃は、ヘンリーズフォークなんて・・・と嘯いていたと思うが、もう自分自身の人生の残された時間が少ない事を「実感」するようになった今、物語のプロットを練り直すばかりでは何も書き始められないと気づき、具体的に行動に移すことにした。ヘンリーズフォークへ行く、と決めた。

f:id:keepcool:20191215130756j:plain

今の時代、情報は勝手に飛び込んでくるくらいに氾濫していて、却って何から手をつけていいのかわからない、そういう時や事がある。ヘンリーズフォークへ行くと決めたものの、具体的な準備や手続きや経費や日程など、どうしたらいいのか?と、あれこれ調べ始めたものの、どれを選んでどれを捨てるべきなのかすらわかりかねる情報の量と質に埋没してしまい、さてどうしたものか・・・となった。

 渡航に関すること、費用、アメリカという国、そういう事に関しては、何となく理解しているつもりであるし、過去にアメリカに行った事もある(釣りではないが)ので、そこはまあいいとしても、逆に釣り(フライフィッシング)の情報、それらの取捨選択をどうしたらいいのか?となった。何から着手していこうか・・・と。

想像は膨らみ、それらはどんどん美化されてゆくが、いざ現場に立つと、そこは想像の世界ではなかった、となるのだろう。想像は妄想でしかない・・・という事は自分自身のこれまでの経験で染み付いているのだけれども、それでも色々と想像する。とはいえ・・・ごちゃごちゃ考えても仕方がない!と、半ば無理やりにヘンリーズフォークへの「事始め」として、竿を製作してもらうことにした。細かなスペックは、これまたあふれる情報に翻弄されていた。例えばラインの番手、4番なのか5番なのか?という基本的な事すらも決めかねていたような有様。結局、経験豊富な先達の助言に従い5番とした。竿は当然の事ながら、竹。別に5番の竿ならアメリカ製の有名どころのカーボンのものを持っているから、新調する必要がないのだけれども、そうじゃないだろ・・・と、妄想が膨らみ、いつも使っている竹竿のビルダーさんに依頼した。もうこれで、後戻りは出来ない。

f:id:keepcool:20191215132330j:plain

竿は来春に出来あがる予定で、今竹を削り始めたと電話があり、いよいよ後戻りが出来ないと「覚悟」した。そんな大層な事を・・・と、思われるかもしれないけれども、そうでもしないともう一生かの地にてライズに対峙することはないのじゃないかと思えてならないので、覚悟を決めないとならないなと、しておく。

まだ他にも、毛鉤を巻く事や、足りない道具を揃えることや、具体的な日程を決めることと、渡航と滞在の段取りと、周りへの「根回し」と、色々ある。ただライズに没頭したいだけなのに、それへの障壁は、川面を吹く風や難解な流れやハッチチャートやトラウトの偏食具合だけではないわけで、それなりに生きてきた年月分だけいよいよ高い障壁となっているから、さぁ・・・どうしたものかと思うが、もう決めたのだからと、粛々とこなしてゆくだけ。

f:id:keepcool:20191215132223j:plain

残された時間が少ないことに気づいたのとは、何を以ってなのか?

老眼が進行しているような気がしたからです。ライズに没頭できる残された時間は本当にリマインダーがしつこく知らせてくるよりもより切実に「その時」が近付いていることを知らせているようで・・・

 

個人的な事柄として



 

 

Conquest of paradise 釣人は「楽園の征服者」なのか

荒涼とした原始が剥き出しの世界へ浸透してゆく釣人。

釣人は荒れ狂う海に対峙し、ヒラスズキを追う。

自然との対話、自然への畏敬の念、自然の恵みに感謝・・・

そのような感傷的な言葉など、一切顧みることなく、ただひたすらに、ヒラスズキを追う。対話を拒否した圧倒的な対峙の世界を行く・・・

 

Conquest of paradise

 

釣人は、楽園の征服者。

調和された「楽園」たる世界を破壊する行為こそが釣りであり、その実行者が釣人なのだと、私は思う。ヒラスズキを追う釣人もまた、荒涼とした世界の征服者たらんと、そこへ浸透してゆく。

f:id:keepcool:20191208010201j:plain

 

だが一方で、私は、釣人は自らの意思で楽園に浸透した征服者ではなく、実はその楽園から誘(いざな)われ、汀に立たされているのではないのか?と、思う時がある。

釣人は無意識のうちに楽園に誘われ、汀に立たされ海と対峙させられて、楽園から試されている存在なのではないのか?楽園からの問いに対して、答えを間違えると、楽園は容赦なく釣人の命を奪うのではないのか?

だとしたら、釣人は征服者などではなく、もっと別の存在なのではないのか?いや、存在すらしていないのではないのか?

では、釣人とは・・・

f:id:keepcool:20191208011543j:plain

海に対峙しながら、そのような事を思った。

 

 

「静かの海 Mare Tranquillitatis 」について

f:id:keepcool:20191207014140j:plain


冬の海、

ことに荒れ狂う海に対峙し、

ヒラスズキ(Lateolabrax latus Katayama)を追う釣人を記録したドキュメンタリー作品。

 

「静かの海 Mare Tranquillitatis」

 

釣人は何故そこまでしてヒラスズキを追うのか?

私は、その問いへの旅を続けている。

釣りとは?

釣人とは?

荒涼とした原始が剥き出しの磯を、ただひたすら行く釣人。

絶対的に救済のない世界の汀にて、釣人は何を視るのか。

 

f:id:keepcool:20191207012030j:plain

f:id:keepcool:20191207012500j:plain

f:id:keepcool:20191207012610j:plain

Κύριε ἐλέησον.....kylie eleison....

f:id:keepcool:20191207013100j:plain

輝ける、闇へ。

 

 

*画像の無断使用を禁止します。画像には著作権番号が付与されています*