自転車と釣りと余白と

自転車と釣りと周辺の余白について

River of the Covenant   ーヘンリーズフォーク釣行記 その1ー

"Was vernünftig ist, wird wirklich, und das Wirkliche wird vernünftig."   
理性的なものは現実的であり、現実的なものは理性的である」    Hegel

2024年7月10日から21日までの12日間、アメリカ合衆国アイダホ州ヘンリーズフォークにてライズに対峙した記録。

DAY 1  JLY/10 2024

水曜日。

 

前日夕刻、モンタナ州ボーズマンの空港に到着し、車を借り受けて若干の買出しをしたのち、ラストチャンスへ向けて走り出した。初めて来たボーズマンの街を慣れない右側通行と左ハンドル車で走るのは緊張する。アメリカで車の運転をするのも初めてだ。
スマートフォンのナビに案内されるまま走り、夕闇せまる街を抜けて191号線を南下し、ロッキー山脈の懐深くをゆるやかに登って行く。道沿いにギャラディン川が流れている。やがてウエスイエローストーンの街を抜けて191号線から州道20号線に入り分水嶺を越えると、アイダホ州に入る。もうすでに真っ暗な中、ラストチャンスの宿所に到着する。午後10時半。

明けて10日朝、快晴。
余り眠れず早朝より起き出し、荷物を整理し釣りの準備をする。今日から12日間、ただひたすら釣りをする。ライズに没頭する・・・
準備を終えると、湯を沸かしコーヒーを飲んで、買い込んだバケットを千切って齧りながらぼんやりと今日のことを考える。とりあえず、釣りのライセンスを買うことと、現場に立つことを目指して宿所を出る。青空が拡がる。
朝の20号線を走り最寄の釣具屋へ向かう。右手に川が見える。ヘンリーズフォークだ。
川には誰もいない。少しは感動的な気分になるのかと思ったがそういうことはなく、イメージと違って瀬のような流れだなと、妙に冷静に思う。
トラウトハンターという店に立ち寄る。店内へ入ると、人でごちゃごちゃしている。みんな買い物客かと思ったが、ガイドとそのクライアントが川に繰り出す前に立ち寄っているような雰囲気だった。やがてそれらの人が店を出て行くと一気に静寂が訪れた。
完成品フライのショーケースの前でじっとしていると店員に声をかけられる。
「何か探してます?お手伝いしましょうか?」髭を蓄えたがっちりした体躯の店員。
私は、日本から来た事、初めてヘンリーズフォークに来た事、今のハッチの状況に即したフライを見繕って欲しい事、釣りのライセンスを買いたいことを告げた。
「OK!いい時に来たよ!今の状況は・・・」とハッチ状況を説明しながらフライを選ぶ店員に頼もしさを感じる。日本ではフライを買うことはまず無いが、知らない土地でもあり参考のためとして、また情報を得るためもありそれなりの金額のフライを買い込み、そしてアイダホ州の釣りライセンスを発行してもらう。
店を出て青空の下の20号線を南下する。オズボーンブリッジを渡りすぐに右折し、ハリマン州立公園のビジターセンターへ立ち寄る。この公園内に入る際には、1日につき7ドル支払うことになっている。先ほど寄ったトラウトハンターで店員に「毎日釣りをするなら年間パスを買ったほうがいいかも。80ドルだったと思う。」と教えられたので、それを購入するべく立ち寄る。厳密にはハリマン州立公園の区域は広大でその中の有料エリアというべき場所なのだけれども。
建物に入り声をかけるとドアの奥から若い女性が愛想よく出てきた。名札には季節とあったので夏の間だけのバイトの子かもしれない。用件を伝えると、「じゃあ年間パスか毎日都度払いのどちらが安いか調べてみますね。ちょっと待っててください・・・」とPCを立ち上げて調べ始めた。いや、毎日来たとして12日なので都度払いだと84ドル、年間パスは80ドルだから・・・と思うものの、真剣にPCを操作して調べてくれているのでそれを言い出せず。結局年間パスを購入することになった。車(レンタカー)のナンバープレート(カリフォルニア州登録)を撮影しそれを取り込み、宿所の住所と共に登録された年間パスは12月31日まで有効とあった。これで諸々の準備は出来た。

ミリオネアプールを俯瞰する

ミリオネアプールというポイントへ向かう。駐車場に車を止めて支度をする前にまずはと川の様子を見に行く。整備された公園の歩道を歩くとほどなくミリオネアプールが眼前に現れる。
それはイメージしたヘンリーズフォークそのものの風景だった。
遠くの川面に何人か釣人が立ち込んでいた。手前の淵では何か大きな魚がライズを繰り返している。レインボートラウトか?いやホワイトフィッシュかも・・・などと思っていると、脂鰭を見せるかのようにライズした。あぁ、レインボートラウトか。でもまあそこはいかにも深そうな淵だったので誰も手が出せない聖域なのかもしれない。あまりにも悠然とライズをしていると、却って疑ってしまう。世界一難解なライズの川と言われるヘンリーズフォークでそう簡単にライズを見つけられるとは思わないし、そう易々とライズを釣る事は出来ないという先入観に支配されている私は、しばらくそのライズを眺めてのち、車に戻って釣りの支度を整えて、いよいよ川に向かう。

アプローチのあぜ道

先行者からかなり離れた場所で川に入る。川は、水温は低く、水深は膝ちょっと上というところで、僅かに濁った水と川底の水草、そして水草や何やらの流下物がある状況。牧場の中を流れる大きなスプリングクリークであり、灌漑ダムのテイルウォーターでもあることをそれらのもので改めて知る事となる。
この川で釣りをするために製作してもらった蜉蝣ロッド8ft#5にハーディーの1950年代のセントジョージⅢからラインを引き出してガイドに通し、リーダーに6xのティペットを結んで、その先にサーチフライとして#16のフライングアントのフライを結ぶ。ライズを発見しハッチの主体を絞り込むまではサーチフライとしてアントがいいと、こちらに来る前に観たDVDの中でレネ・ハロップ氏が言っていたので、忠実に従う。
諸々の手順を踏んで川辺に立ったのが午前10時半だった。そこからとりあえず様子を見つつ川辺を歩いてリサーチをと考えていた矢先、目の前でライズリングが拡がった。やがて「コポッ!」という音と共に少し沖合いでライズ。ライズの音は本当は無いのかも知れないが、そう聞こえた気がした。
そのライズの主は何かはわからない。ただ非常にフォームは小さいが残った波紋からそれなりの大きさの魚だという事はわかった。
見ていても仕方が無い。正体を確かめたくもあり、そのライズを狙ってみる事にした。
静かに、静かにライズした場所へ足を進める。ライズは定期的にするわけではなく、思い出したころに静かにする感じだ。そしてライズは1回で終わらず、2,3回連続でライズをしては沈黙する。そのサイクルは一定ではない・・・
フライに丁寧にフロータントを施し、リールからラインを引き出して、ライズに備える。
やがてちょっと離れた場所でライズをした。丁度正面やや下流というポジションで10メートルもない距離だった。そのライズに対して、フライを投じた。
距離を見誤りライズした場所より手前を流れるフライ。再度投げ直す。
今度はライズした付近を流れる。が、水面は静かなまま・・・
その後数度投げるも全く反応無く、ライズもない。
ですよね・・・そう上手く行くわけがないですよね・・・
水面を観察する。流下する虫類は、よくわからない。何かのメイフライのスペント、カディスのスペント、そしてごくたまにグリーンドレイクのようなメイフライのダンが流れるが、それらに対してライズをしている気配はない。ただ忘れた頃にするライズは静かに鼻先を出すライズなので大きなものを食べているわけではないのはわかる。
フライングアントではないのは明白なのでフライを変える。#16番のPMDクリップルダンを結びライズに備える。根拠があり経験から導き出したフライ選択ではなく、レネ・ハロップ氏の著書に従った。そもそも経験が全く無いこの川ヘンリーズフォークで、根拠を以ってフライを選択することは私にはできない。
またライズした。
早速フライを投げる。フライの下で波紋が拡がった。が、フライは何事も無く流れ去る。

時間は午後1時前。ライズは止まってしまった。
時差ボケが治まらずフワフワした気分でどこか定まらない気持ちもあり、今日の釣りはここまでとし、川から引き上げる。
宿所に帰り、宿所併設のグリルでサンドイッチと炭酸飲料を買い昼食とした。その後頼まれた用事をこなす為に、ウエスイエローストーンの釣具屋へ向かい買い物をしてのち120マイル離れたボーズマンの街まで走り巨大なスーパーマーケットで買い物をして、日が沈むころにラストチャンスへ戻った。

蜉蝣ロッド8ft#5にハーディーセントジョージⅢ


こうして1日目が終わった。

つづく